最新記事

中国

トランプ「香港人権法」署名に中国報復警告──日本は?

2019年11月29日(金)12時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

その心情はトランプ大統領の「習近平国家主席と香港市民への敬意をもって法律に署名した」という奇妙な声明に現れているように思われる。おまけにトランプ大統領は香港法の執行は「大統領権限に委ねられている」と条件を付けている。

すぐ実行するわけではないので、「中国よ、譲歩してくれ」、というメッセージを送っているように見える。「そうでないと、米中貿易で成果を出せなかったとして、俺は大統領に再選されないことになってしまうかもしれないのだよ」という心の声が聞こえるようだ。

しかし署名をしたという事実は、世界に、特に中国に衝撃を与えた。

炸裂した中国の怒り――報復措置を警告

そうでなくとも香港法案が下院や上院で議決されるにつれて、中国は激しくアメリカに抗議し、なんとかトランプ大統領がサインしないように厳しい糾弾を叫び続けてきた。

たとえば11月22日の人民日報は「王毅、米議会が香港人権・民主法案を議決したことに関して厳正なる(中国の)立場を表明した」という見出しで報道しているし、また11月25日の新華網は「人民日報の署名文書:暴力を扇動する悪行は、必ず国際社会から 唾棄(だき)される(忌み嫌われ蔑まれる)」という見出しで、米議会が「2019年香港人権・民主法案」を採決したことを、口を極めて糾弾している。これは暴力を肯定し中国の内政に干渉するものであり、正義に反する行為だと、長々と批判が続く。

11月25日に香港民主派の圧勝が決まると、それを掻き消すかのように、報道は激化していく。

11月26日には「米議会が米大統領に香港人権・民主法案に署名しろと呼び掛けていることに関する外交部の回答」を多くのメディアが報道している。ここでは外交部の耿爽報道官が会場にいる記者から香港民主派の区議会選挙における勝利に触れながら質問があったため、耿爽報道官は実に腹立たしい表情で、アメリカ行政部門の中国委員会(CECC)がトランプ大統領に署名を催促しているとして、「アメリカはいい加減で情勢を見極め、懸崖勒馬(けんがい・ろくば)せよ(崖っ淵から馬を引き返せ=瀬戸際で危険を悟って引き返せ)。香港人権・民主法案が成立するのを阻止せよ。香港に手出しをするようないかなることもやってはならない。中国の内政に口を挟むな。もしアメリカが我意を押し通すなら(独断専行を続けるなら)、中国は必ず強力な措置を取り、断固として対抗する」と述べている。

つまり「断固として対抗措置を取る」ということだ。この言葉は実質上、「断固として報復措置を取る」と言ったと解釈していいだろう。

中国としては「さあ、署名できるものなら署名してみろ」と脅しをかけてきたつもりだろうが、その甲斐もなくトランプ大統領は署名してしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ペロシ元下院議長の夫襲撃、被告に禁錮30年

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅安、FRBは利下げ時期巡り慎

ワールド

バイデン氏のガザ危機対応、民主党有権者の約半数が「

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中