トランプ「香港人権法」署名に中国報復警告──日本は?
その怒りが、どんなに激しく炸裂したかは、想像に難くない。
まず外交部は、その正式のウェブサイトで外交部声明(2019年11月28日)
を発表。一般のコメントではなく、「声明」であることは注目に値する。
同じ内容を新華網も伝え、また中央テレビ局CCTVも伝えている。
環球時報も例外ではない。
報復措置の内容は?
外交部声明の最後の部分では、26日に外交部の耿爽報道官が使った言葉と同じ言葉を使っているが、その後に「すべての結果はアメリカが負うべし」という文言が付け加わっている。
この「すべての結果」とは、現在進行中の米中貿易交渉における「第一段階の合意はないものと思えよ」ということであるのかもしれず、だとすると「中国によるアメリカの農産品の爆買いはないからな」と脅しているのかもしれない。そうなるとトランプ大統領が中国に高関税をかけたことにより困窮している大豆農家などがトランプの大統領再選のための「票田」から離れていく。「大統領に再選されなくてもいいんだな」という、トランプの泣き所を指したメッセージとも受け取れる。
いずれにせよ、「報復措置」はトランプ大統領が最も困るポイントに焦点を絞ることは明確だ。
その意味で逆に、「法を執行する権限は大統領にある」というトランプ大統領の声明にすがり、それを最後の威嚇にしようという狙いもあるだろうと解釈できる。
一方、CCTVにおける解説などを詳細に考察していると、総合的には「アメリカの動きが他の西側諸国に波及する」のを、中国は恐れているということも見えてくる。
日本は何を考えているのか?
こんなときに、日本は何を考えているのだろうか。
習近平国家主席の「日本があるから大丈夫」という声が聞こえるようなこの時期に、中国に見透かされている日本政府は、今般の香港法の成立に対してどう回答しているのか、多くの日本メディアが報道した。
11月28日、記者からの香港法成立に関する質問に菅官房長官は「他国の議会の動向について政府としてコメントは控える」としつつ、来春の習近平国家主席の国賓来日への影響に関しては「考えていない」と答えたという。
つまり、このような国際情勢の中にあっても、安倍政権は習近平を国賓として招聘することを断念していないのである。
それがどのようなシグナルを全世界に発信していくか、安倍政権には熟考して頂きたい。今からでも遅くない。まさに「懸崖勒馬(けんがい・ろくば)せよ」と言いたい。まだ間に合う。
11月27日付のコラム「香港民主派圧勝、北京惨敗、そして日本は?」で書いたばかりなので理由に関しては繰り返さないが、そのコラムの後半にあるグラフを見て頂きたい。かかる状況の中で、絶対に習近平を国賓として招聘すべきではない。それだけは一歩も譲らず主張し続ける。
日本の未来が描けないとは、日本の野党もだらしないものだ。
いずれにせよ、ある意味で、民主主義政治の脆弱性を痛感する。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。