社会資本の高齢化──「陰鬱な科学」が迫る苦渋の決断
急速なインフラ整備のツケで、今や社会資本向け投資の9割が更新費用に充てられている ngkaki-iStock.
<インフラも時が経てば将来世代の負担になる。すべてを維持・更新することが無理だとすれば取捨選択を迫られ、住み慣れた土地から移住しなければならない人も出てくる>
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2019年11月8日付)からの転載です。
老朽化する日本の社会資本
東京の首都高速道路は、1962年に京橋と芝浦の間の4.5kmが開通し、1964年の前回の東京オリンピックに向けて突貫工事で整備が進められた。初期に作られた部分は既に半世紀以上が経過し、首都高速道路株式会社は、「進行する構造物の高齢化や過酷な使用等により、重大な損傷も発見されている状況」にあるとして、大規模な更新・修繕事業を進めている。2012年には中央高速道路の笹子トンネルで天井が崩落して9名の方が亡くなられるという事故が起こったことに見られるように、首都高速道路に限らず長年整備が進められた日本の社会資本は老朽化が進み、更新や大規模な改修工事が必要になっているものが少なくない。
膨張する維持・更新費用
社会資本を使用可能な状態に維持するには、毎年相応の維持コストがかかるだけでなく、何十年かに一度は大規模な改修工事を行う必要がある。GDP統計では、社会資本が時と共に老朽化したり陳腐化したりして価値が下がることを反映して、固定資本減耗という項目を立てている。企業であれば減価償却費に相当する部分で、毎年実際に支出が行われるわけではないが、資産価値を維持するために投資を行うとすれば必要となる費用が会計上の費用として計上されている。
毎年発生している政府の固定資本減耗は、政府の固定資産の約3%程度で、社会資本が増え続けていることを反映して緩やかだが増加傾向が続いている。財政が深刻な状況にあることもあって、毎年度の公共予算はかつてに比べて大きく減少していて、固定資本減耗と公的固定資本形成の差額は縮小し、近年は毎年の社会資本への投資額の約9割を更新に充てなければならない計算となっている。
毎年発生する固定資本減耗は帳簿上の数字であり、工事が行われて支出が発生しているわけではなく、資金が積み立てられているわけでもない。老朽化が進んで大規模改修が必要な時になって初めて過去の費用もまとめて工事費用として皆が認識するようになる。
毎年の経済の変動を見るのには固定資本減耗を控除する前のGDP(国内総生産)が使われ続けているという事情もあって、社会資本の潜在的な更新費用に対する社会の関心は薄い。