最新記事

人権問題

中国は「ウイグル人絶滅計画」やり放題。なぜ誰も止めないのか?

China Shows How Easy It Is to Get Away With Ethnic Cleansing

2019年11月19日(火)17時30分
ジョシュア・キーティング

中国はウイグル人の抗議活動を徹底的に抑え込む構え(写真は13年7月、新彊ウイグル自治区のウルムチ市)REUTERS

<中国政府によるウイグル人弾圧の実態を示す内部文書が明らかになった。100万人を強制収容して思想改造を行っても各国政府からの反応はなし。世界で民族浄化が横行するわけだ>

11月16日付の米ニューヨーク・タイムズ電子版は、中国の新疆ウイグル自治区で大勢のイスラム教徒(主にウイグル人)が中国共産党の「再教育」キャンプに強制収容されている問題について、弾圧の実態が記された共産党の内部文書を入手したと報じた。それによれば、習近平国家主席はイスラム過激主義について、「ウイルス」と同じようなもので「痛みを伴う積極的な治療」でしか治せないと考えているということだ。

問題の内部文書は、新疆ウイグル自治区に帰省した人々に、当局が家族の身柄を拘束していることについてどう説明するかを指示している。彼らの家族は過激主義の危険性についての「教育」を受けており、法を犯した訳ではないがまだ解放できないと説明しろ、という内容だ。また収容者たちは「誤った思想を捨て、中国語と仕事の技能を無料で学ぶことができるこのチャンスを大切にするべきだ」と説明するようにも指示。さらに、収容者の身柄解放はポイント制で決定され、家族の言動も点数に影響し得ると警告するよう指導している。

この世のディストピア、ウイグル自治区に女性記者が潜入


100万人の文化的ジェノサイド

恐ろしい内容だが、こうなることは分かっていたはずだ。国際社会はしばらく前から、ウイグル人に対する虐待や弾圧があることを知っていた。生存者の証言や衛星写真から、新彊ウイグル自治区のイスラム教徒に対する身柄の拘束や監視、宗教の自由の抑圧についての詳しい情報も得ていた。国連をはじめ、マイク・ペンス副大統領やマイク・ポンペオ国務長官などアメリカの政府高官も、この問題について中国を非難し、アメリカはウイグル人の弾圧に関与しているとみられる中国の政府高官にビザの発給を制限するなどの制裁を発動した。

それでも、最大100万人もの人々が宗教を理由に強制収容されているという文化的ジェノサイド(大量殺戮)に等しい事態を前にしても、国際社会の反応は薄いように思える。中国製品をボイコットしている企業や組織はほとんどない。2022年に北京で開催される冬季オリンピックにも、何ら影響が及ぶことはなさそうだ。アメリカの複数の政府高官は強制収容を非難しているが、その中にドナルド・トランプ大統領は入っていない。トランプが人権問題で中国を批判することはほとんどなく、9月に国連で宗教の自由について演説した際も、ウイグル人の問題には言及しなかった。今は香港当局が、北京政府の意向を受けて民主化デモを粉砕しようとしているが、実効ある介入はどこからもない。

<参考記事>ウイグル民族の文化が地上から消される
<参考記事>香港の完全支配を目指す中国を、破滅的な展開が待っている

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中