最新記事

人権問題

中国は「ウイグル人絶滅計画」やり放題。なぜ誰も止めないのか?

China Shows How Easy It Is to Get Away With Ethnic Cleansing

2019年11月19日(火)17時30分
ジョシュア・キーティング

中国政府は、宗教と過激主義がテロの脅威に結び付くことが実際にあることを利用して、大勢の無関係の人々の身柄拘束を巧妙に正当化している。テロ対策の専門家であるコリン・クラークは8月にスレート誌への寄稿の中で、中国がアメリカの「対テロ戦争」という言葉を都合よく取り入れて、独裁体制を正当化しているようだと指摘していた。今回のニューヨーク・タイムズ紙の報道からも、そのことが伺える。同紙によれば習は中国の当局者たちに対して、アメリカの9・11同時テロへの対応を手本にするよう促し、別の政府高官は、イギリスでの最近の複数のテロ事件は、政府が「安全保障よりも人権を優先させた」ことが原因だと主張した。

中国が世界経済に大きな影響力を持つようになったことで、誰も強く批判できなくなっているのかもしれない。10月には米プロバスケットボールNBAに所属するヒューストン・ロケッツのゼネラルマネージャーが、ツイッター上で香港の民主化デモに支持を表明したときは、反発した中国側が試合の放映中止やスポンサー契約の解消などの措置を取ると表明。同マネージャーが謝罪に追い込まれた。

同じイスラム教徒のウイグル人の苦境に対し、多くのイスラム諸国も沈黙を貫いている。おそらく中国との経済的なつながりや、中国からの投資を失いたくないからだろう。

アメリカも見て見ぬふり

これは中国に限った問題ではなく、民族浄化は世界各地で横行している。独裁国家がますます強硬になるなか、民主主義諸国は断固たる態度を取れず、国際的な法制度は崩壊寸前の状態にある。

ウイグル人の弾圧のような大規模な犯罪が処罰されることもなく公然と行われているのは、こうした背景があるからだ。反体制派を弾圧し拷問や殺戮を重ねたシリアのバシャル・アサド大統領は内戦による失地を回復し、大国から政権維持も保障されたような有り様だ。インドはカシミール地方の取り締まりについて、諸外国からほとんど圧力を受けていないし、バングラデシュの各当局はロヒンギャ難民たちに、彼らをさんざん迫害したミャンマーに帰れと言っている。

アメリカが民族浄化を見て見ぬふりをしたことは他にもある。11月中旬に漏洩した米国務省のウィリアム・ローバック副特使の内部文書は、「シリア北部におけるトルコの軍事作戦には民族浄化の意図がある」と指摘し、それでもアメリカはトルコを止めようともしなかった、と批判した。

スリランカでは、11月16日に投開票された大統領選挙でゴタバヤ・ラジャパクサが勝利。兄であるマヒンダ・ラジャパクサ前大統領の下で国防次官を務めたゴタバヤは、2009年に分離独立主義を掲げたタミル系の反政府勢力、タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)に対する軍事攻勢を主導し、この際に大勢の一般市民を巻き添えにしている。戦争犯罪の疑いを指摘する声があったにもかかわらず、ゴタバヤは最近の複数のテロ攻撃を受けて、国の安全保障を争点に多数派であるシンハラ人が多い地域で支持を集めた。彼は親中派としても知られている。

今回のニューヨークタイムズの報道は、新彊ウイグル自治区で起こっていることに対する懸念を改めて掻き立てるものとなるかもしれない。だがそれが中国に「再教育」をやめさせるほどの圧力になることはないだろう。

(翻訳:森美歩)

20191126issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月26日号(11月19日発売)は「プラスチック・クライシス」特集。プラスチックごみは海に流出し、魚や海鳥を傷つけ、最後に人類自身と経済を蝕む。「冤罪説」を唱えるプラ業界、先進諸国のごみを拒否する東南アジア......。今すぐ私たちがすべきこととは。

© 2019, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

キヤノン、キヤノン電子に1株3650円でTOB 上

ワールド

米政権、「第三世界諸国」からの移民を恒久的に停止へ

ビジネス

午後3時のドルは156円前半、日米中銀総裁発言など

ワールド

ハンガリー首相、プーチン氏と会談へ エネ供給とウク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中