最新記事

教育

私立学校でいじめの実態は把握されているのか?

2019年11月13日(水)15時45分
舞田敏彦(教育社会学者)

いじめは問題行動の中でも量的な把握が最も難しい HRAUN/iStock.

<教育委員会が強く指導できる公立学校と違って、私立学校ではいじめ問題が認知されにくいことが指摘されている>

子どもの問題行動が、13~15歳の思春期で多発するのはよく知られている。この年代は中学生のステージだが、最近では私立中学校が増えている。東京都内では、中学生の4人に1人が私立校の生徒だ。

その私立校に関連して、10月23日の京都新聞ウェブ版に興味深い記事が出ている。「私立校のいじめ対応に不満、どうすれば? 指導機関なく『治外法権』との声も」と題するものだ。

中身については後で触れるが、いじめは問題行動の中でも量的な把握が最も難しい。可視性が低く、客観的な基準がない。学校がいじめの把握にどれほど本腰を入れるか、という認知の姿勢にも影響される。ここで問いたいのは、学校側の認知の姿勢だ。中学校の公立と私立を比較すると、気になる傾向が見えてくる。

毎年実施される『全国学力・学習状況調査』では、「いじめはどんな理由があってもいけない」という項目への賛否を問うている。否定的な回答をした中学校3年生の率は、公立が4.4%、私立が7.0%となっている(2018年度)。いじめの容認率は、公立より私立のほうが高い。この比率を中学校の全生徒数にかけると、いじめを容認する生徒の実数が出てくる。これを、統計に出ているいじめ認知件数と照合すると<表1>のようになる。

data191113-chart01.jpg

統計上のいじめ認知件数(d)を、いじめを容認する生徒の推計数(c)で割ってみると、公立は0.711、私立は0.170となる。分母をいじめの真数と見立てると、公立は7割を把握できているが、私立は2割もわかっていないことになる。私立のいじめ認知度は低い。

生徒募集に響くので、学校がいじめの認知に積極的でない可能性がある。問題のある生徒は退学させることができ、私立校ではこの手の問題への対応に関する研修が、公立に比して不十分であることも考えられる。

上記の京都新聞記事では、私立校のいじめ対応には不満が多いことがいわれている。公立校なら、教育委員会が強く指導できる。公立のいじめ認知度は7割と高いが、相次ぐ重大事件を受けて、教育委員会の指導が強化されているためだろう。しかし私立はそうはいかず、指導の権限が設置者の学校法人にあるため、内輪の問題として処理され、きちんとした対応ができていないという疑問がある。同記事でも提言されているが、私立学校についても外部の指導機関が必要だろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米南部、記録的寒波と吹雪で少なくとも12人死亡 9

ワールド

パリ協定再離脱、米石油・ガス業界は反対 トランプ政

ワールド

米軍、メキシコ国境に兵士1500人追加派遣へ さら

ワールド

メキシコ、米国から強制送還される人々の受け入れ施設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 4
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    【クイズ】長すぎる英単語「Antidisestablishmentari…
  • 8
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中