激動のレバノン、大規模デモと経済危機の背景とは
レバノンは10月半ばから、首都ベイルートその他の都市で反政府デモによる混乱が広がり、サード・ハリリ首相が辞意を表明する事態となった。写真はベイルートでのデモ(2019年 ロイター/Andres Martinez Casares)
レバノンは10月半ばから、首都ベイルートその他の都市で反政府デモによる混乱が広がり、サード・ハリリ首相が辞意を表明する事態となった。既に危機に陥っていた経済への信頼感は揺らいでいる。
デモ参加者の怒りは、1975─90年の内戦以来、国を支配している宗派主義の政治家の腐敗に向けられている。
経済圧迫する巨大債務
レバノンはほとんど輸出せず、輸入に多くを頼っている。非効率性、浪費、汚職が原因で債務負担は世界最悪のレベルだ。
10年前は年8─9%の成長を続けていたが、シリア内戦や中東全域の混乱、海外からの資本流入の減少などにより急減速。ここ数年1─2%で推移した後、今年はゼロ成長に落ち込んだ。
国内総生産(GDP)が550億ドルなのに対し、国家債務はその約150%の850億ドルに達している。
外貨調達源が少ないレバノンは、海外移住者からの国内送金により輸入代金や財政赤字の穴埋めを続けてきた。しかし金利が上昇を続けているにもかかわらず、そうした資金環流は減速。ドルが不足し、レバノンポンドはここ数カ月間に出来上がった闇市場で下落している。ポンド安は物価上昇につながり始めた。
財政支出の大半は、債務返済と肥大化した官公庁の経費によって吸い取られている。
インフラはお粗末で、毎日のように停電が起こり、コストの高い民間発電によってその穴を埋めている。国有の携帯電話事業者は料金が高い。
35歳未満の失業率は37%。何年も前から赤字抑制のための改革が叫ばれているが、政府は手をこまねいている。
宗派優先の腐敗政治
反政府デモの参加者らは、政治エリート層が商売と政治を結ぶ恩顧主義の網を通じ、国家資源を使って私腹を肥やしていると批判している。
1人の統治者が強権を振るう多くのアラブ諸国と異なり、レバノンは多様な宗派を代表する多くの指導者や政党が混在している。
政治ポストは公認の18宗派に対する割り当て制。国民議会はキリスト教徒とイスラム教徒が半々、首相はイスラム教スンニ派、大統領はキリスト教マロン派、国民議会議長はイスラム教シーア派と定められている。
この制度が権力における階級制を恒久化し、国家よりも自らの利益を優先する政治家の行動を可能にしているというのが、デモ参加者らの主張だ。参加者らはエリート層の排除だけでなく、制度そのものの改革を求めている。
レバノンは分断した政治体制ゆえに外国からの干渉を受けやすく、そのことが長年にわたり国内の危機をあおってきた。
シリア軍がレバノンから撤退した2005年以来、同国の政治紛争の多くはイランが後押しするシーア派組織ヒズボラと、米国および湾岸アラブ諸国連合が支援する勢力との対立を反映したものとなっている。