「金持ち」イングランドを破った南アフリカの必然
Money Can't Change Everything
12年ぶり3回目の優勝を喜ぶ南アフリカ代表チーム Matthew Childs-REUTERS
<大成功のラグビーワールドカップ日本大会は、南アフリカの12年ぶり3回目の優勝で幕を閉じた。グローバル化でラグビーの「南高北低」が崩れつつある中、それでも南アがイングランド有利の下馬評を覆して優勝できた理由は>
ラグビーは足し算ではない。
ラグビーワールドカップ日本大会の決勝を見ながらつくづく思った。南アフリカに初戦で快勝したニュージーランドをイングランドが準決勝で完璧に抑え込んだが、そのイングランドに南アフリカは決勝でほとんどラグビーをさせなかった。
なぜ南アは劣勢の前評判を覆してニュージーランドに並ぶ3回目の戴冠という偉業を達成したか。細かいプレーや戦術の分析は他のスポーツライターに譲る。私は違う観点から、南アフリカ対イングランドの決勝について考えてみたい。
10月27日の準決勝でウェールズに勝利した後、イングランドと決勝を戦うことになった南アのヨハン・エラスムス監督が試合後の記者会見で気になることを言った。
「われわれはイングランド(協会)のようにお金はない。南アフリカのラグビー市場は豊かではない」
「(2年前にヘッドコーチに就任した時は)選手にプロとしての当事者意識がなかった」
そもそも「ノーギャラ」だった
それまで少なくとも建前上、選手すべてが「ノーギャラ」でプレーしていた15人制ラグビーは第3回ワールドカップが開かれていた1995年6月、プロ化容認に向けて動き始めた。そこからラグビーは大きく変わり、選手はプロ契約を選択する者が増え、プレーはより高速に、肉体はより巨大になった。選手はより高額の報酬を求めて世界を渡り歩くようになる。経済的に豊かな国はラグビー市場も豊かだ。南太平洋の島々の肉体的・身体能力的に優れた選手はニュージーランドやオーストラリア、さらにヨーロッパへ。ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの選手も、それぞれのラグビー協会が流出を防ぐ手立てを講じなければ、ヨーロッパや日本に移籍するようになった。
決勝を前にしたエラスムスの言葉はイングランドのヘッドコーチ、エディー・ジョーンズとの舌戦の一環あるいは謙遜だろうが、実は南アの本音でもある。