イラン政権転覆を狙う反体制派が抱える闇
Bracing for the Fall
傍観を決め込むアメリカ
イランの反体制派のうち、実際に戦闘に従事してきたのは主に民族的・宗教的少数派(北西部のクルド人とアゼリー人、南西部のアラブ人、南東部のバローチ人)で、彼らは皆、自治を要求している。イラン情勢に詳しいNGO、国際危機グループのネイサン・ラファティによれば、これらの反体制組織はイスラム革命以降、政府機関への小規模な攻撃を頻繁に繰り返しており、イラン政府は彼らを中東地域の敵対勢力の支持を受けたテロ組織と見なしている。
反政府組織のイラン・クルディスタン・コマラ党はこの数年、率先してこうした組織の結束を図ってきた。現在の政教一致体制に代わる分権型の連邦政府を樹立し、民族的少数派の権利を憲法で保障するのが狙いだ。「いずれ現体制は確実に崩壊するだろう」と、党首のモハタディは言う。「その結果、イランが民族地域に分裂する事態は避けたい」
モハタディはトランプ政権に、反体制派と接触して今後の計画を策定するよう強く要請している。さもないと体制崩壊後にイラン革命防衛隊が権力を握るか、国が無秩序状態に陥りかねないという。「トランプ政権はイラン政府に経済的・政治的圧力をかけてきたが、本気で反体制派に働き掛けている様子はない」
実際、トランプ政権は今のところイラン反体制派とあえて距離を置いている。「イランの将来を決めるのはイランの人々だ」と、イラン担当特別代表のブライアン・フックは本誌に語った。「われわれは勝者と敗者を予想するつもりはない」
もちろん、状況が一変する可能性はある。イランの政権交代を目指す方針が明確になれば反体制派の価値は高まる。組織と資金とワシントンにおける知名度からすれば、MEKはその最たる例だ。イラン現体制に代わる選択肢としてMEKを除外しないとのトランプ政権の今年の決定を受けて、MEKが早くもトップに躍り出たと考える支持者もいる。だがボルトンが9月に電撃解任され、MEKへの風向きは変わりつつある。
今のところ、トランプ政権の対イラン政策は相変わらず経済制裁が中心だ。「イランの代理組織を弱体化させ、現体制が中東の不安定化に必要なリソースを欠く状態にするには、経済的圧力が必要だ」と、フックは言う。「目的を達成する道はそれしかない」
平和ではないが戦争もない今のイランでは、反体制派がリーダーシップを握る余地はない。イラン政府と米政府の緊張状態が続けば、くすぶる火種にいずれ火が付き、イランの政治が動く──それを期待するしかない。
そのとき反体制派は、そしてアメリカは、すぐ対応できるだろうか。
<本誌2019年10月29日号掲載>
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