イラン政権転覆を狙う反体制派が抱える闇

Bracing for the Fall

2019年10月25日(金)19時00分
ジョナサン・ブローダー(外交・安全保障担当)

傍観を決め込むアメリカ

イランの反体制派のうち、実際に戦闘に従事してきたのは主に民族的・宗教的少数派(北西部のクルド人とアゼリー人、南西部のアラブ人、南東部のバローチ人)で、彼らは皆、自治を要求している。イラン情勢に詳しいNGO、国際危機グループのネイサン・ラファティによれば、これらの反体制組織はイスラム革命以降、政府機関への小規模な攻撃を頻繁に繰り返しており、イラン政府は彼らを中東地域の敵対勢力の支持を受けたテロ組織と見なしている。

反政府組織のイラン・クルディスタン・コマラ党はこの数年、率先してこうした組織の結束を図ってきた。現在の政教一致体制に代わる分権型の連邦政府を樹立し、民族的少数派の権利を憲法で保障するのが狙いだ。「いずれ現体制は確実に崩壊するだろう」と、党首のモハタディは言う。「その結果、イランが民族地域に分裂する事態は避けたい」

モハタディはトランプ政権に、反体制派と接触して今後の計画を策定するよう強く要請している。さもないと体制崩壊後にイラン革命防衛隊が権力を握るか、国が無秩序状態に陥りかねないという。「トランプ政権はイラン政府に経済的・政治的圧力をかけてきたが、本気で反体制派に働き掛けている様子はない」

実際、トランプ政権は今のところイラン反体制派とあえて距離を置いている。「イランの将来を決めるのはイランの人々だ」と、イラン担当特別代表のブライアン・フックは本誌に語った。「われわれは勝者と敗者を予想するつもりはない」

もちろん、状況が一変する可能性はある。イランの政権交代を目指す方針が明確になれば反体制派の価値は高まる。組織と資金とワシントンにおける知名度からすれば、MEKはその最たる例だ。イラン現体制に代わる選択肢としてMEKを除外しないとのトランプ政権の今年の決定を受けて、MEKが早くもトップに躍り出たと考える支持者もいる。だがボルトンが9月に電撃解任され、MEKへの風向きは変わりつつある。

今のところ、トランプ政権の対イラン政策は相変わらず経済制裁が中心だ。「イランの代理組織を弱体化させ、現体制が中東の不安定化に必要なリソースを欠く状態にするには、経済的圧力が必要だ」と、フックは言う。「目的を達成する道はそれしかない」

平和ではないが戦争もない今のイランでは、反体制派がリーダーシップを握る余地はない。イラン政府と米政府の緊張状態が続けば、くすぶる火種にいずれ火が付き、イランの政治が動く──それを期待するしかない。

そのとき反体制派は、そしてアメリカは、すぐ対応できるだろうか。

<本誌2019年10月29日号掲載>

【参考記事】米イラン戦争が現実になる日
【参考記事】ボルトン解任はトランプにしては賢明だった

20191029issue_cover200.jpg
※10月23日発売号は「躍進のラグビー」特集。世界が称賛した日本の大躍進が証明する、遅れてきた人気スポーツの歴史的転換点。グローバル化を迎えたラグビーの未来と課題、そして日本の快進撃の陰の立役者は――。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

お知らせ-重複記事を削除します

ワールド

ウクライナ首相「米との関係維持に全力」、軍事支援一

ワールド

トランプ氏、対ウクライナ軍事支援を一時停止 首脳会

ワールド

中国が対米報復関税、小麦などに最大15% 210億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政権の対カナダ25%関税
  • 3
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
  • 4
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 5
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 6
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 7
    米大統領執務室での「公開口論」で、ゼレンスキーは…
  • 8
    「70年代の日本」を彷彿...発展を謳歌する「これから…
  • 9
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「ト…
  • 10
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 8
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 9
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中