最新記事

中国

習近平が言ったとする「(分断勢力の)体はつぶされ骨は粉々に」を検証する

2019年10月15日(火)19時50分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

習近平とネパール首相K.P.シャルマ・オリが握手 Prakash Mathema/Pool via REUTERS

日本では習近平が言った「粉身碎骨」を誤訳し、おまけに「香港デモを念頭に」と習近平の心を読み取る読心術まがいの歪曲報道までがあるが、原文の文脈を読んだのだろうか?習近平の「粉身碎骨」発言を検証する。(追記をご覧いただきたい)

習近平が「粉身碎骨」を使った文脈

習近平国家主席は10月13日、訪問先のネパールの首都カトマンズでオリ首相と会談した。その時のほぼ全文が中国共産党新聞に掲載されているので、それを詳細に見てみよう。

タイトルは「習近平、ネパールのオリ総理と会談」

習近平は以下のような文脈で「粉身碎骨」という常套句を使っている。

──中国はネパールが「一つの中国」政策を堅持し、中国の核心的利益において中国を徹底して支持してくれていることを高く評価している。中国の如何なる地区においても分裂活動を意図する者は、最終的には「粉身碎骨」するだけだ(滅んでいくだけだ)。中国の分裂を支持する如何なる外部勢力も、中国人には妄想を抱いているとしかみなされない!

この言葉を発した背景にはネパールが「中国国内にいるチベット族の亡命ルートになっている」という事実がある。

中国と隣接してネパールがあり、そのネパールを経由して中国国内にいるチベット族がインドに亡命し、インドで「チベット亡命政府」を設立している。1959年に中国大陸上で起きたチベット動乱の際に、ダライ・ラマとともにインドに亡命し、現在はインドの都市ダラムシャーラー(ダラムサラ)で十数万から成る「チベット人民機構」(2011年)が形成されている(便宜のため、以降は「チベット亡命政府」)。

チベット亡命政府に脱出する中国のチベット族は、「ネパールやブータンを経由して」インドに行く者が多い。

そこでオリ首相は習近平に対して以下のように応じている(上記「習近平、ネパールのオリ総理と会談」の後半)。

──ネパールは、中国の主権と領土の完全維持に関して、断固「一つの中国」原則を守っており、如何なる勢力がネパールの領土を利用して反中分裂活動に従事しようとも、それに断固反対し、また絶対にそのような活動を許さない。

つまり、習近平は、「ネパールを経由してインドに設立しているチベット亡命政府を強化する活動を許さない」と言っているのであり、その勢力は「最終的には滅んでいく」と言っているのだ。

日本における歪曲報道

驚いたのは、この文脈を「香港デモに関して習近平が初めて見解を述べた」という文脈でとらえていることであり、さらに「体はつぶされ骨は粉々に」と、この上なく恐ろしい言葉を用いて表現したと報道していることだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中