最新記事

米中関係

中国の圧力に「無条件降伏」したNBAの罪

The NBA Is China’s Willing Tool

2019年10月15日(火)19時00分
ジェームズ・パーマー

NBAにとって中国は巨大市場(シュートする元ロケッツの姚明、2007年) RICHARD CLEMENT-ICON SPORTS WIRE/GETTY IMAGES

<幹部の香港支持のツイートが批判を受けてNBAが謝罪。米経済界が中国の「検閲」にあっさり屈した理由とは>

ある意味、予想された展開ではあった。10月4日、NBA(全米プロバスケットボール協会)に所属するヒューストン・ロケッツのゼネラルマネジャー、ダリル・モーリーが「香港と共に立ち上がろう」と書かれた画像をツイッターに投稿(後に削除)。中国の国営メディアとソーシャルメディアから大きな批判を浴びた。

NBAは直ちに、これはあくまでも個人の意見で、NBAは関与していないという声明を発表し、英語と中国語で謝罪した。何しろNBAにとって、中国は数十億ドルの市場。それを危機にさらしたくはない。

だが、この決断はアメリカのビジネスにとって大きな意味を持つ。言論の自由を支持することを誇りとしてきたアメリカのスポーツ界が、中国の圧力にいとも簡単に屈したのだ。

中国に対して下手に出ているのはNBAだけではない。ディズニーなどのアメリカの大手映画会社が今は中国の検閲基準を満たす作品を製作している──アメリカの人気アニメ番組『サウスパーク』が先日、辛辣に批判する内容のパロディーを放送した。

事実、中国が国外に拡大している検閲とも言える動きに、多くの企業が追従している。例えば、チベットを支持した従業員を解雇したホテルチェーンのマリオット・インターナショナル、国際便の「国・地域」の表記リストから台湾を削除しろという中国の要請を受け入れた欧米の航空会社、反体制派とされる人々の電子メールアカウントを中国側に提供したヤフー......。

中国に対しては、卑屈な姿勢を見せて謝罪することが当たり前になっている。たとえそれが、非常に理不尽なことでもだ。

中国側の怒りには、純粋な国民感情による部分もある。しかし、その怒りの多くは国営メディアがあおったもの。ナショナリズムを押し出す空気に反発する人々は何も言えない状況だ。外国企業が中国のナショナリズムに反する動きをすれば、ネット上で批判を浴び、公式あるいは非公式な形で制裁を受ける。韓国がTHAAD(高高度防衛ミサイル)を配備したとき、報復の矢面に立たされたのは韓国系の大手百貨店ロッテだった。

なぜこんなことになったのか。1990年代に米クリントン政権が推進し、中国の経済的関与を支持する多くの人々や外国企業が思い描いた米中関係は、中国の自由化だ。今はそれとは正反対の事態が起きている。

自由よりも株主が大事

NBAは、警官が黒人を射殺したことを非難する選手を支持したのに、幹部が香港警察に抗議すると慌てふためいた。こうした例はほかにもある。

アップルは2016年、カリフォルニア州サンバーナディーノで起きた銃乱射事件で、容疑者のiPhoneのロックを解除するようFBIに要請されたが、ユーザーの個人情報保護を理由にはねつけた。だが中国政府の要請には応じ、アップストアからVPN(仮想プライベートネットワーク)アプリを削除した。VPNはインターネットの利用に厳しい規制が敷かれる国で、検閲や監視を回避するために使用されることが多い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中