アルモドバル70歳にして語り得た珠玉の物語
His Most Personal Movie
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今年3月の新作上映イベントにアルモドバル(写真左端)はメインキャストのクルス(左から2人目)、バンデラス(左から3人目)、エチュアンディア(右端)らと参加した Sergio Perez-REUTERS
<「私の人生に基づいた」半自伝的な新作『ペイン・アンド・グローリー』を、スペインの映画監督アルモドバル本人が語る>
スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督の最新作『ペイン・アンド・グローリー』は極めて自伝的な作品だ。ただし物語がひどく込み入っているので、最初に大筋のプロットを紹介しておこう。
主人公は老境に入って何かと病を抱えている映画監督のサルバドール(アントニオ・バンデラス)。32年前に作った映画が再上映されることになり、それに出演していた俳優アルベルト(アシエル・エチェアンディア)と再会。彼に勧められてヘロインを体験する。
そしてサルバドールは、昔の恋愛体験に基づく自伝的な脚本をアルベルトが一人芝居にして演じることを許可する。すると、その脚本に登場している元恋人のフェデリコ(レオナルド・スバラーリャ)が偶然舞台を見に来て、サルバドールと再会を果たす。
作中のサルバドールは繰り返し、バレンシアで過ごした子供時代の記憶を呼び覚ます。彼が奨学金で宗教学校に通えるように奔走した献身的な母親(ペネロペ・クルス)のこと、読み書きを教えてあげた若き肉体労働者エドゥアルド(セサル・ビセンテ)の裸身を見て失神してしまったことなどだ。
独特な世界観で知られるアルモドバルが70歳の誕生日を迎えた9月24日、スレート誌のジューン・トーマスが彼を訪ね、本作でカンヌ国際映画祭の主演男優賞を獲得したバンデラスのことや、過去の作品との共通点について話を聞いた。
――この作品はあなた自身の物語なのか?
私に関わる部分がたくさんある。私自身に最も近い映画と言えるが、文字どおりの自伝ではない。全て身近で起きたことだが、全てが自分の体験ではない。ほとんどは私の人生、あるいはとても親しい誰かの人生に起きたことだ。ただし「私の人生」には私の家族や兄弟姉妹の記憶、私の聞いた話も含まれる。
――文字どおりの自伝でないのに自分の部屋の家具を撮影に使い、自分の服をサルバドールに着せたのはなぜ?
作品のテーマには関係ない。主人公の髪形や衣装、暮らす部屋の内装が違っていてもよかった。でもアントニオ(・バンデラス)には、あれがよく似合っていた。大事なのは、主人公がたくさんの絵に囲まれて、しかし1人で暮らしていること。その孤独さを出したかった。
私のアパートの物を使う必要もなかったが、実際的なメリットはあった。美術監督にとっては都合がよかった。撮影中に突然何かが足りないと気付いても、アシスタントを私の家に行かせれば間に合ったから。