最新記事

災害

数千人が行方不明になったハリケーン「ドリアン」 私を救った1本のロープ

2019年9月13日(金)11時48分

ロイターの依頼でハリケーン「ドリアン」の写真を撮るためマーシュハーバーに向かった私は、飛行機に乗る前、バハマで消防救急士として働く従兄弟に連絡した。写真は被害を受けたマーシュハーバー。2日撮影(2019年 ロイター/Dante Carrer)

ロイターの依頼でハリケーン「ドリアン」の写真を撮るためマーシュハーバーに向かった私は、飛行機に乗る前、バハマで消防救急士として働く従兄弟に連絡した。彼は電話を切る直前、謎めいたアドバイスをくれた。「ロープを持ってくるのを忘れないように」。

振り返ってみれば、そのロープが私の命を救ってくれたのかもしれない。

私はバハマの首都、ナッソーの出身だ。フリーランスのフォトグラファーとして約3年間、ロイターのために写真を撮っている。ほとんどはハリケーンの写真だ。

最近まで私が目にした最悪のハリケーンは、2016年、ハイチで500人の命を奪った「マシュー」だった。停電は3週間も続いた。ハリケーンの「目」がニュープロビデンス島を通過、ナッソー南部は一部地域が壊滅した。

桁違いの猛威

だが、今回のドリアンの猛威は桁違いだった。

8月30日遅く、私は小さな双発機で、グレートアバコ島マーシュハーバー空港に降り立った。昔から観光客に人気のある町で、富裕層が別荘を構えるにも適しているし、釣りを好む人にとっては非常に魅力的なマリーナもある。

そんな美しい風景が、ドリアンの襲来で想像を絶する姿に一変した。

カテゴリー5のハリケーンに分類されたドリアンは、最大風速時速185マイル(秒速82メートル)、瞬間最大風速は時速220マイル(秒速98メートル)に達した。カリブ海で発生するハリケーンとしては、史上最強の1つにランクされる。

5日の時点でバハマにおける死者は30人に達し、なお数千人が行方不明となっている。

襲ってくる水、そして火

風の音が変わったのに気づき、低気圧のために耳鳴りを感じ始めた。そのとき、私は独りでホテルの2階にある自分の部屋にいた。

土砂降りの雨が続き、部屋のドア枠の周囲とバスルームの窓のスラットから水が噴き出してきた。ドアが吹き飛ばされた場合に直撃されないよう、私は部屋の隅に逃れた。

雨漏りでテレビがショートし、火を噴いた。ボトルに入っていた水をかけて消火しなければならなかった。そして、停電になった。

ハリケーンの「目」が通過している間は、風雨が治まり、部屋を離れて写真を撮ることもできた。ドリアンの巨大さゆえ、「目」のなかにいる時間も尋常でなく長かった。

だが、すでに椰子の木はすべてなぎ倒され、ホテルから100フィート(30メートル)離れていた海面は15フィート(4.6メートル)まで迫っていた。マリーナは水面下に没しており、見ることさえできなくなっていた。

やがて、風が再び強まり、私はほうほうの体でホテルに逃げ帰った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「ドル等価」目前のユーロ、急反転で市場混

ビジネス

ブルーバード遺伝子治療、FDAが規制措置の要否検討

ワールド

韓国中銀、15年ぶり2会合連続利下げ トランプ氏復

ワールド

トランプ政策で一段とインフレ不安定も、NZ中銀幹部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 3
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウクライナ無人機攻撃の標的に 「巨大な炎」が撮影される
  • 4
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 5
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 6
    「健康寿命」を2歳伸ばす...日本生命が7万人の全役員…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 9
    未婚化・少子化の裏で進行する、「持てる者」と「持…
  • 10
    谷間が丸出し、下は穿かず? 母になったヘイリー・ビ…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 10
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中