数千人が行方不明になったハリケーン「ドリアン」 私を救った1本のロープ
ロイターの依頼でハリケーン「ドリアン」の写真を撮るためマーシュハーバーに向かった私は、飛行機に乗る前、バハマで消防救急士として働く従兄弟に連絡した。写真は被害を受けたマーシュハーバー。2日撮影(2019年 ロイター/Dante Carrer)
ロイターの依頼でハリケーン「ドリアン」の写真を撮るためマーシュハーバーに向かった私は、飛行機に乗る前、バハマで消防救急士として働く従兄弟に連絡した。彼は電話を切る直前、謎めいたアドバイスをくれた。「ロープを持ってくるのを忘れないように」。
振り返ってみれば、そのロープが私の命を救ってくれたのかもしれない。
私はバハマの首都、ナッソーの出身だ。フリーランスのフォトグラファーとして約3年間、ロイターのために写真を撮っている。ほとんどはハリケーンの写真だ。
最近まで私が目にした最悪のハリケーンは、2016年、ハイチで500人の命を奪った「マシュー」だった。停電は3週間も続いた。ハリケーンの「目」がニュープロビデンス島を通過、ナッソー南部は一部地域が壊滅した。
桁違いの猛威
だが、今回のドリアンの猛威は桁違いだった。
8月30日遅く、私は小さな双発機で、グレートアバコ島マーシュハーバー空港に降り立った。昔から観光客に人気のある町で、富裕層が別荘を構えるにも適しているし、釣りを好む人にとっては非常に魅力的なマリーナもある。
そんな美しい風景が、ドリアンの襲来で想像を絶する姿に一変した。
カテゴリー5のハリケーンに分類されたドリアンは、最大風速時速185マイル(秒速82メートル)、瞬間最大風速は時速220マイル(秒速98メートル)に達した。カリブ海で発生するハリケーンとしては、史上最強の1つにランクされる。
5日の時点でバハマにおける死者は30人に達し、なお数千人が行方不明となっている。
襲ってくる水、そして火
風の音が変わったのに気づき、低気圧のために耳鳴りを感じ始めた。そのとき、私は独りでホテルの2階にある自分の部屋にいた。
土砂降りの雨が続き、部屋のドア枠の周囲とバスルームの窓のスラットから水が噴き出してきた。ドアが吹き飛ばされた場合に直撃されないよう、私は部屋の隅に逃れた。
雨漏りでテレビがショートし、火を噴いた。ボトルに入っていた水をかけて消火しなければならなかった。そして、停電になった。
ハリケーンの「目」が通過している間は、風雨が治まり、部屋を離れて写真を撮ることもできた。ドリアンの巨大さゆえ、「目」のなかにいる時間も尋常でなく長かった。
だが、すでに椰子の木はすべてなぎ倒され、ホテルから100フィート(30メートル)離れていた海面は15フィート(4.6メートル)まで迫っていた。マリーナは水面下に没しており、見ることさえできなくなっていた。
やがて、風が再び強まり、私はほうほうの体でホテルに逃げ帰った。