野生動物の棲む静寂の森は喧騒の都市に インドネシア首都移転の波紋
移転開始は2024年
名称未定の新首都予定地を発表したことで、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領はこれまでで最も首都移転の実現に近づいた。移転開始は2024年に決まった。
北プナジャム・パスール県知事のアブドゥル・ガフル・マスード氏は、「ありがたい。住民は喜んでいる」と話す。「この地域は開発が遅れているとみられてきた」
同氏の執務室にはお祝いの花が並び、街のムードと同じくらい華やいでいる。
住民の多くは学校がよくなり、道路が舗装され、清潔な上水道と安定した電力が整備されることを期待する。
一方で、投機に伴う地価上昇、外部からの求職者の流入、環境破壊への懸念も表面化している。
国民は、大規模な汚職が起きる可能性も懸念している。ブラジルのブラジリアからミャンマーのネピドーに至るまで、首都の新設には巨大な建設プロジェクトが付きものだ。
クタイ・カルタネガラ・イン・マルタディプラ首長領のアワン・ヤクブ・ルスマン長官は、「住民で急いで準備を整えなくてはいけない」と話す。彼にとって最大の懸念は人口の流入だ。
東カリマンタン州は、イスラム以外の宗教への寛容さだけでなく、外部の人々を暖かく迎え入れる文化を売り物にしている。実際、住民の多くは1970年代、炭鉱とパームオイル生産で知られる同地域に流入したジャワ系入植者の子孫だ。
とはいえ、今回予定されている首都移転は規模が違う。
土地投機への懸念
地元紙の「トリビューン・カルティム」によれば、移転予定地の発表以来、土地の売却希望価格は4倍に上昇したという。
しかし、不動産業界団体リアルエステート・インドネシアの現地代表を務めるバグス・スセトヨ氏によると、バリクパパン周辺は多くが公有地で、大手不動産会社は土地の取得を進めていないという。
土地価格の上昇で利益を得る者もいるだろうが、インドネシア国民の多くは、自分が暮らす土地を所有しているわけではない。
イパーさんもその1人だ。厄除けにココナツの若葉を編み込んだダイヤモンド型のお守り2つを身につける彼女は、すでに住む家を失う覚悟をしているという。
「ジョコウィ大統領、あなたはたった1平方メートルでも無料の土地を、あるいは無料の家を私に与えてくれるの」と、彼女は言う。
オランウータンの聖域
脅かされているのは人間だけではない。東カリマンタン州は、オランウータン、マレーグマ、テングザルが生息する森林で有名である。
ブロジョネゴロ国家開発企画庁長官によれば、保護林では建設事業は行われず、放棄された鉱山や違法なパームオイル生産プランテーションでは森林再生が計画されているという。
同氏は、中国の成都にあるジャイアントパンダ保護センターのように、オランウータン保護センターを建設することも提案している。
オランウータンの運命はインドネシアにとって特に重要な問題だ。プランテーションによる森林破壊を巡り、世界最大規模の同国パームオイル産業を批判している環境保護団体にとって、オランウータンは象徴的な存在になっているからである。
環境保護団体は、東カリマンタン州への首都移転による悪影響が生じないと確信するにはほど遠い状態だと話している。
クタイ・カルタネグラに拠点を置くボルネオ島オランウータン保護財団の幹部アルドリアント・プリアジャティ氏は、「新しい首都は生息地からかなり離れているかもしれない」と言う。
「だが、残念ながらジャカルタとまったく同じように、開発は至るところで行われることになるだろう」
(翻訳:エァクレーレン)
[センボジャ(インドネシア) ロイター]
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