最新記事

サイエンス

中国の研究チームが歯のエナメル質を修復することに世界で初めて成功

2019年9月4日(水)17時00分
松岡由希子

世界初!歯のエナメル質を修復 Zhejiang University

<中国の浙江大学の研究チームによって、歯のエナメル質を修復できるジェル状の素材が世界で初めて開発された......>

国際歯科連盟(FDI)によると、未治療の虫歯がある人は世界で39億人と、世界人口の44%を占めている。歯冠を覆うエナメル質は、体内で最も硬い組織だが、自己修復力はなく、複雑な構造ゆえ、人工的に複製できないものだと考えられてきた。

現在、虫歯の治療では、レジンやセラミック、アマルガムといった素材で代替するのが一般的だ。しかしこのほど、歯のエナメル質を修復できるジェル状の素材が世界で初めて開発された。

48時間で、厚さ2.5マイクロメートルのエナメル層を修復

中国の浙江大学の唐睿康教授らの研究チームは、独自に開発したジェル状の素材によって、虫歯で損傷したエナメル質を48時間以内に修復させることに成功した。一連の研究成果をまとめた研究論文は、2019年8月30日、学術雑誌「サイエンスアドバンシズ」で公開されてい
る。

研究チームは、アルコール溶液の中でエナメル質に含まれるカルシウムイオンとリン酸イオンを有機化合物のトリエチルアミンと混ぜると、歯と同一の構造を有するエナメル質ができることを発見した。虫歯になったヒトの歯にこの混合物を適用したところ、48時間で、厚さ2.5マイクロメートルのエナメル層を修復できた。このエナメル層は、天然のエナメル質と同じ階層構造と機械的性質を有していたという。

matuoka0904c.jpg

ヒトの歯のエナメル質の電子顕微鏡画像。左から6時間、12時間、48時間。 青い部分は天然のエナメル質、緑は修復されたエナメル。Zhejiang University

2年以内に、ヒトを対象とした臨床実験に......

研究チームでは、今後、ヒトを対象に、この手法で歯のエナメル質が再生するかどうか実証する計画だ。研究論文の共同著者でもある浙江大学の劉昭明博士は、米ニュース専門局「スカイニュース」で「順調にいけば、今後2年以内に、ヒトを対象とした臨床実験に着手できるだろう」と述べている。また、唐睿康教授は、自身の歯のうちの1本が欠けていることがわかり、「自ら『モルモット』となって臨床実験に協力したい」と意欲を語っている。

英キングス・カレッジ・ロンドンのシェリフ・エルシャークウェ博士は、英紙ガーディアンの取材に対して、「手法はシンプルだ」と研究チームの成果を評価したうえで、「臨床的に検証する必要がある」とし、歯科治療に用いられるまでにはあと5年程度を要するとの見通しを示している。また、エルシャークウェ博士によれば、虫歯の治療には、エナメル層の厚さを0.5ミリから2ミリ程度まで拡張させる必要があるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震、インフラ被災で遅れる支援 死者1万

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中