最新記事

日本社会

都市部で広がる子どもたちの「勉強時間格差」

2019年8月21日(水)16時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

他の都道府県についても同じデータを出せる。横軸に30分未満、縦軸に3時間以上の比率をとった座標上に、47都道府県を配置すると<図1>のようになる。点線は全国値を表す。

data190821-chart02.jpg

勉強しない子とする子の比率はマイナスの相関関係にあり、右下がりの傾向を予想していたが、現実にはそうなっていない。しない子とする子の分化が小さい県(左下)と、その逆の県(右上)に割れてしまっている。後者には都市部の県が多い。塾通いしている子としていない子の差、ないしは家庭の経済格差が相対的に大きいことによるものと思われる。

勉強しない子がどういう意識を持っているかも気になる。前出の苅谷教授の調査によると、親が低学歴のグループで勉強時間の減少が大きいのだが、この群の生徒の自己有能観は高い。とりわけ、学校の成績での成功物語を否定する生徒の自己有能観が高いという結果が出ている(前掲書)。

そこから分かるのは、下層の生徒が自発的に勉強(学び)から降りている、ということだ。「学校での勉強が全てではない、やりたいことをすればいい、自己実現が大事だ」という言説があるが、勉強が振るわない(下層の)子どもはそれに飛びつきやすい。情報や刺激が飛び交っている都市部では、特にそうだろう。これが放置されるなら、じわじわと静かな形で、日本社会の階層分化が進むことになる。

学校での勉強(学び)を否定し、個性や自己実現を美化する風潮が強まっているが、社会の構成員が習得すべき共通教育の内容が疎かにされるのは良くない。個性化・多様化とは、しっかりとした共通教育(教養)の上に立つべきものだ。

子どもの勉強時間格差から、日本社会の階層分化の兆候が見て取れる。勉強しないのは、どういう子どもか? 家庭環境や意識などを調査してみる必要があるだろう。「勉強から降りるのは当人の自由だ」と、早い段階から切り捨ててしまうのは、教育を受ける権利の侵害にほかならない。

資料:文科省『全国学力・学習状況調査』(2019年度)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は続伸、トランプ関税への不安後退 中

ワールド

ロシア・ウクライナ、黒海・エネ停戦で合意 ロ「制裁

ワールド

インド政府、サムスンに関税と罰金で6億ドル強の支払

ワールド

米大統領と裁判所の対立、世論調査で大多数が司法判断
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 5
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 8
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 9
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 10
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中