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外食チェーンの海外進出、成功のカギは「8:2」の和魂洋才 くら寿司、全米展開の勝算

2019年8月3日(土)11時37分
南 龍太(ジャーナリスト)

「海外重視」路線の背景にある日本市場の変化

大手回転ずしチェーンが海外を目指す背景には、国内の競争激化がある。

各業界に詳しい富士経済(東京)が2018年に発表した外食産業に関する調査結果によると、回転ずしの国内市場規模は17年に前年比4.5%増の6325億円となり、近年3~4%台で推移している。この拡大傾向は続くとみられ、22年には7435億円まで拡大すると予測される。同じく富士経済の調査結果では、すし市場全体の規模は17年に前年比1.3%増の1兆6912億円だった。回転ずし産業の成長率の高さやシェアの大きさが分かる。

ただ成長の裏では、1皿100円を切る、あるいは時間帯によって食べ放題にするといった低価格競争の下で、顧客の奪い合いが巻き起こっている。中にはウニやマグロなど、販売価格に占める材料費の比率「原価率」が50、60%を超え、採算ラインぎりぎりで提供しているネタもあるようだ。

業界1、2位のスシローとくら寿司はいずれも大阪発祥だが、首都圏を中心として近年急速に店舗網を拡大し、全国で鍔迫り合いを繰り広げている。後続のはま寿司やかっぱ寿司が負けじと食らい付いている構図だ。大手5社による市場シェアは全体の75%とも言われる。

一方、そうした大手各社の攻勢を受け、地方都市発祥のローカルな店舗が相次いで倒産の憂き目に遭っていた。調査会社の東京商工リサーチによると、2018年1~7月に、神奈川県を中心に「ジャンボおしどり寿司」を展開していた「エコー商事」や、福井県のプリーズ、富山県のエスワイケイなど6社が相次いで倒産、前年を上回るペースで「急増している」という。原材料となる魚介類の不漁などに伴う価格高騰や、人手不足を背景とした人件費上昇などが経営を圧迫したと分析しており、こうした要因は大手、中小を問わず収益の重しとなっている。

「回転寿司に関する消費者実態調査」を例年実施しているマルハニチロは、2019年の調査で15~59歳の男女3000人にアンケートを行った。「回転ずし店を選ぶ際に、重視している点」を複数回答で尋ねたところ、「値段が安い」が46.0%で最も多く、「ネタが新鮮」が41.2%、「ネタの種類が豊富」が33.9%と続いた。

こうした声も反映しつつ、回転ずし業界はどのような発展を遂げるだろうか。差し当たり、日本国内では大手による提携や合併も交えたシェア争い、海外ではアメリカや東南アジアへの出店加速といった動きが続きそうだ。

南 龍太
「政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。また、流通や交通、電機などの業界、東日本大震災関連の記事を執筆。現在ニューヨークで多様な人種や性、生き方に刺激を受けつつ、移民・外国人、エネルギー、テクノロジー、Futurology(未来学)を中心に取材する主夫。著書に『エネルギー業界大研究』(産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。お問い合わせ先ryuta373rm[at]yahoo.co.jp」

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