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北朝鮮情勢

繰り返される韓国紙の誤報、処刑されたはずの北朝鮮高官が生きていた

2019年7月23日(火)18時23分
トム・オコナー

2月にハノイで米側との事前協議に臨んだ金革哲(中央) LINH PHAM/GETTY IMAGES

<米朝首脳会談を決裂させた責任で処刑されたはずの高官が最高指導者とともに音楽発表会に出席、おおげさな報道はこれまでにも>

殺されたはずの北朝鮮外交官が、実は生きているらしい。朝鮮半島の非核化に向けた米朝協議の先頭に立っていた金革哲(キム・ヒョクチョル)のことだ。先に韓国の有力紙が処刑説を伝えていたが、今度は韓国のスパイ機関からの情報として、生存説が伝えられている。

2月末にベトナムの首都ハノイで開かれた第2回米朝首脳会談に向けて、金革哲はアメリカ側との実務協議を任されていた。

その首脳会談が決裂した責任を問われて金革哲を含む複数の高官が処刑・粛清された──韓国紙・朝鮮日報は北朝鮮内部からの情報として、5月にそう報じていた。

しかし6月初めに北朝鮮の朝鮮中央通信が公表した画像を見ると、粛清されたはずの金英哲(キム・ヨンチョル)(党中央委員会副委員長)が最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)と一緒に音楽発表会を鑑賞していた。続いて米CNNも、やはり情報源を伏せたまま、金革哲は首脳会談決裂後に身柄を拘束されたが殺されてはいないと報じた。

北朝鮮の支配層の豪勢な暮らしぶりや残虐な粛清については、昔からおおげさな報道が繰り返されてきた。なにしろ情報統制が厳しく治安警察が目を光らせている国だから、北朝鮮について報じようとする外国メディアは想像力をたくましくせざるを得ない。

そうした報道が真実を言い当てた例もある。例えば金正恩の叔父で、側近と目されていた張成沢(チャン・ソンテク)の場合。彼は13年12月に本当に処刑されている。だが猟犬に食われて殺されたという話は、どう考えても作り話だろう。この話はシンガポール紙ストレーツ・タイムズが伝えたものだが、その情報源は香港紙の文匯報で、文匯報のネタ元は中国の交流サイトに投稿された風刺ブログだったという。

張成沢が処刑される数カ月前には、やはり朝鮮日報が中国の消息筋からの情報として、北朝鮮の国民的歌手・玄松月(ヒョン・ソンウォル)の処刑を報じていた。彼女は金正恩の元愛人ともされるが、ポルノ動画を撮影したという理由で処刑されたという話だった。

しかし彼女も生きていた。そして17年にはモランボン楽団の団長として党中央委員候補に選ばれ、翌年には南北実務協議における北朝鮮代表団に加わり、2度にわたる米朝首脳会談にも随行したのである。

<2019年7月30日号掲載>

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