香港デモの追い風が対中強硬派・蔡英文を救う
Xi is Tsai’s Best Poster Boy
一方で、国民党の親中派の候補者たちは、香港の抗議デモを受けて中国との距離感を変えざるを得なくなっている。中国との関係強化を前面に押し出して高雄市長に当選した韓は最近になり突然、態度を翻し、一国二制度を実現させるなら「私の屍(しかばね)を越えて行け」と言ってのけた。
蔡は習からも予想外の「援護射撃」を受けた。習は1月2日の演説で、台湾に一国二制度に向けた政治対話を呼び掛け、「祖国統一」を受け入れなければ侵攻の恐れもあると語った。
これまでにない単刀直入な表現に、台湾市民は警戒を強めた。蔡は数時間後に談話を発表し、台湾は中国が示す条件に基づく統一を決して受け入れないと言明した。
熱情的で、時に常軌を逸した行動に出る台湾の政治家の中で、蔡は生真面目に見えて、ややカリスマ性に欠ける。実績や政策はなくても気さくな人というイメージ戦略で人気を集めている韓や、海の女神「媽祖」のお告げで総統選への出馬を決めたと語る郭の華やかなキャラクターとは、極めて対照的だ。
もっとも、韓はカリスマ性こそ高いが、スローガンは中身が乏しくスキャンダルも少なくない。「台湾のドナルド・トランプ」「台湾のロドリゴ・ドゥテルテ」と、米大統領やフィリピン大統領になぞらえて揶揄されることもある。
彼が中国に気に入られていることは明らかだ。今年3月に香港を訪れた際は、行政長官や中国政府の出先機関、香港連絡弁公室のトップと会談している。
しかし、香港のデモを受けてあっさり手のひらを返した韓は一気に失速しそうだ。先日は、高雄と中国の温州を直行のフェリーで結ぶという計画を突然、発表し、台湾当局が即座に公式な話ではないと否定した。
内外からの圧力に耐えて
誰が国民党の総統選候補になっても、市民の間で中国に対する警戒心が高まっていることに対処しなければならない。ここで親中的態度を和らげた以上、総裁選でも引き続き、中国に対して強硬な姿勢を示さざるを得ないだろう。
それに対し、蔡は一貫して中国への従属を拒否してきた。その結果、中国は公的な交流を中断し、台湾への旅行客を抑制している。さらに、台湾近海には軍艦を派遣し、軍用機は異常接近を繰り返している。