香港デモの追い風が対中強硬派・蔡英文を救う
Xi is Tsai’s Best Poster Boy
外交でも中国は圧力を強め、台湾と断交する国が相次いでいる。さらに、WHOの年次総会など主要な国際会議で台湾の出席を妨害。国外の航空会社や企業には、台湾を中国の一部として表記するように迫っている。
中国のこうした戦略は、蔡に大きな代償を強いている。多くの市民は、中国との不安定な関係が景気低迷の大きな理由だと考えている。韓は高雄市長選で、中国との貿易の強化を主な公約に掲げた。3月には中国本土を訪れ、1億6700万ドルを超える農業関連の合意を締結している(ただし、中国の国有企業を介した取引ではないかと言われている)。
それでも蔡は断固とした立場を貫き、中国の怒りに耐えながら、一方でアメリカとの関係を改善している。台湾初となる国産潜水艦の建造計画を推進するなど、軍事力の強化にも乗り出している。
公務員の年金改革や、アジアで初めて同性婚を認める法案など、地味な政策はあまり注目を浴びず、支持率にも貢献しないが、台湾の将来にとって重要なものも少なくない。経済では、東南アジアや南アジア、オーストラリア、ニュージーランドとの経済・文化交流を促進する「新南向政策」を提唱。中国への経済依存を減らし、貿易関係の多様化を目指している。
米中貿易戦争を受けて、台湾企業が生産拠点を中国から地元に戻す動きを促進するために、蔡は優遇策などを実施。発表によると、台湾企業から国内への投資は120億ドルに達する見込みだ。雇用と生産性の面で、台湾経済を活気付けるだろう。
蔡は7月11日からのカリブ海諸国歴訪に際し、経由地としてアメリカを訪れた。米政府は私的で非公式な滞在としているが、中国は反発を強めている。
国内では強敵が待ち受け、台湾海峡を挟んでも厳しい対決が続きそうだが、蔡は簡単には屈しないはずだ。
<本誌2019年7月23日号掲載>
※7月23日号(7月17日発売)は、「日本人が知るべきMMT」特集。世界が熱狂し、日本をモデルとする現代貨幣理論(MMT)。景気刺激のためどれだけ借金しても「通貨を発行できる国家は破綻しない」は本当か。世界経済の先行きが不安視されるなかで、景気を冷やしかねない消費増税を10月に控えた日本で今、注目の高まるMMTを徹底解説します。