抗生物質が効く時代はあとわずか......医療を追い詰める耐性菌に反撃せよ
WE SHOULD ALL BE SCARED
セリームは、血流中に入り込んだ致死的な耐性菌の消毒にもレーザー光の活用が可能だと考えている。患者を血液循環装置につなぎ、管を通る血液にレーザーを照射することで「血液を体外に取り出して殺菌し、再び体内に戻す」方法が考えられると彼は言う。
一方で研究者たちは、今も新たな抗生物質発見の希望を捨てていない。1928年、イギリスの細菌学者アレクサンダー・フレミングが研究所に置きっぱなしにしていた培養皿に奇妙な緑色のカビを見つけたことから、抗生物質革命は幕を開けた。
これ以降、研究者たちは自然界のあらゆる場所で、次なる偉大な細菌キラーを見つけようとしてきた。
最近の複数の研究によれば、耐性菌さえも死滅させる(ただし人間の体内に入っても安全な)新たな物質は昆虫や海草、魚類の粘液、ヒ素を豊富に含むアイルランドの泥や火星の土に含まれている可能性があるという。またライデン大学(オランダ)では、人工的に生成した細菌を微調整して新たな抗生物質をつくる研究が始まっている。
抗生物質の乱用に歯止めを
耐性菌の進化を遅らせて、今ある抗生物質を有効に活用しようという考え方もある。前提条件は、耐性菌の進化を促す抗生物質の乱用をやめること。耐性菌は一つの場所で発生したものが拡散されることが多いため、国際的な取り組みが必要になる。
複数の研究によれば、世界の抗生物質の大半は処方箋なしで販売されており、これが一因となって、00〜15年にかけて世界の抗生物質使用量は65%も増加した。その結果として出現した耐性菌が、国外旅行者の体内に入り込んで世界中に広まっている。
患者側にも果たすべき役割がある。軽い鼻づまりや尿路感染症でも医師に抗生物質の処方を求める患者がおり、これが抗生物質の乱用に、ひいては耐性菌の誕生につながっている。
マサチューセッツ州の公衆衛生当局は10年以上前から、医師にも患者にも抗生物質の使用量を減らすよう強く促してきた。この取り組みの結果、同州ではこの4年で抗生物質の処方量が16%減少した。これは私たちが負け続けている大きな戦争における、小さな勝利と言えるかもしれない。
だが10年か20年前に容易に予見できたはずの危機に目をつぶってきたことのツケを、私たちは嫌でも払わねばならない。エボラ熱のような致死性の高いウイルスの大流行とまではいかなくとも、耐性菌への感染は今後ますます多くの人の運命を左右することになるだろう。
何しろ1月にコロンビア大学で見つかったような耐性大腸菌を撃退する新戦略の構築に全力で取り組んだとしても、その成果が得られるまでには10 年以上もかかるのだ。
<本誌2019年6月18日号掲載>
※7月9日号(7月2日発売)は「CIAに学ぶビジネス交渉術」特集。CIA工作員の武器である人心掌握術を活用して仕事を成功させる7つの秘訣とは? 他に、国別ビジネス攻略ガイド、ビジネス交渉に使える英語表現事例集も。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら