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イギリス「次期首相」ジョンソンを待つ5つの無理難題

Can Anything Stop Boris Johnson Now?

2019年7月2日(火)17時30分
ジョシュア・キーティング

ジョンソンの選挙対策本部前でアヒル(英語で「逃げる」の意もある)人形をまいて抗議する人々 CHRIS J RATCLIFFE/GETTY IMAGES

<醜聞発覚でもジョンソン独走に陰りは見えないが、その先には解決不能なEU離脱の難題が待つ>

次のイギリス首相の候補はボリス・ジョンソン前外相とジェレミー・ハント外相に絞られた。ブレグジット(EU離脱)と国の行方は、7月23日に結果が判明する与党・保守党の党首選挙で決まることになる。

投票権を持つのはわずか16万人。年会費25ポンドを払っている保守党党員で、半数以上は55歳以上、97%は白人、約70%は男性だ。総じて裕福な人々で、総人口に占める割合は0.2%にすぎない。民主主義とはなんぞや、を考えさせられる。

目下、大きくリードしているのはジョンソンだ。ハントにしてみれば、ゴシップまみれのジョンソンが自滅してくれるのを期待するしかない。

とはいえ、これもあながちあり得ない話ではない。6月下旬には、ジョンソンと交際相手が暮らす住宅で激しい口論や物音が聞こえたため、近隣住民が通報し警察が出動する騒ぎがあった。ジョンソンはこの「DV疑惑」についてコメントを拒否。党内部の選挙なので致命傷になることはなさそうだが、今後も重大な新事実や新たな騒動が出てこないとも限らない。

一方、誰が首相になろうとも、これまでブレグジットを滞らせてきたいくつもの「ジレンマ」は未解決のままだ。

まずは、イギリスでは議会がメイ首相の離脱協定案を拒否しているのに、EU側は協定案の議会承認がない限り交渉を再開しないとしていること。ジョンソンは自らの「ポジティブなエネルギー」と、双方が避けたい合意なき離脱をちらつかせればEUを交渉の席に着かせられると主張する。EU側はこの主張に嫌悪感を示しているが、現状打破には試す価値もありそうだ。

離脱できても前途多難

ただ交渉を再開できても、最大の難関であるアイルランドの国境問題は出口が見えない。イギリスがEUの関税同盟を離脱し、かつ北アイルランドとアイルランド共和国の国境での税関検査を復活させず、かつ北アイルランドとイギリスの経済的一体性を保持する......。

この3つを同時に実現するのは不可能で、ジレンマどころかトリレンマだ。この問題が解決できなければ、かつてイギリスで多くの暴力事件を引き起こしたアイルランド国境問題が再燃し、苦難の末に達成された平和が脅かされる恐れがある。

これに対しジョンソンは、離脱後も国境管理なしで物品をチェックする「技術的解決策」があると言うが、具体的な方法は示せていない。ほかにも、規制の変更などで国境管理を不要にする計画もある。だが、この実現にはイギリス、アイルランド、EUの「非常に緊密な協力」が必要になるという。それが嫌で離脱を望んだはずなのだが。

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