最新記事

BOOKS

1995年、オウム事件を生んだ平成の「災害史観」とは何か

2019年7月26日(金)18時10分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<平成を総括した保阪正康の『平成史』は、平成は実質的に平成7年(1995年)から始まったと解釈する。その年、3つの出来事により昭和が清算された>

『平成史』(保阪正康著、平凡社新書)は、政治、社会問題、天災、人災などについて振り返ることを通じて、「平成」を総括した新書。昭和との因果関係を踏まえながら、深い考察がなされている。

平成の天皇が成し得たことから小選挙区制の欠陥まで、それぞれが興味深い内容だ。私の世代には実感しにくい、戦中派としての考え方も参考になった。

そんな中、最初に引きつけられたのは「災害史観」についての記述だ。著者の言葉を借りるなら、災害史観とは「災害によって起こる社会現象や人心の変化や推移をふまえた歴史の味方」。つまり、平成の災害史観がどのようなかたちで年譜に刻まれているのかを確認すれば、いくつかのことが分かってくるというのだ。


阪神・淡路大震災のほぼ二ヵ月後に、オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こしている。これは単なる偶然か。むろんそうではあるまい。
 オウム事件は災害史観の結果であり、事件の実行者には阪神・淡路大震災とどのような形であれ、心理的動揺の結びつきがあるように思う。
 平成二十三年三月十一日に起こった東日本大震災は二つの面から成り立っている。ひとつは天災であり、強度の地震と津波である。もうひとつは人災であり、東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故である。この天災と人災を組みあわせた大震災により、私たちはそれ以後、多くの災害史観の影響ともいうべき史実を生みだしているように思う。(「序章 天皇の生前譲位と『災害史観』」より)

こうした前提は、第四章「〈一九九五年〉という転換点」で深掘りされている。特に注視されているのは、わずか二ヵ月ほどの間に起こった阪神・淡路大震災とオウム事件である。これらについての史観が、平成という空間を支配していた軸であるというのだ。


平成六年六月には村山富市内閣が発足し、そして翌七年に「戦後五十年の首相談話」を発表している。この談話の意味は重く、私たちの国は〈一九九五年〉にそれまでに昭和の残滓をすべて捨てて、このときから平成という時代をスタートさせたということもいえるのではないかと思う。(99ページより)

つまり平成には名目上の(時間軸での)始まりがあるだけではなく、実質的に「昭和を捨て去った日(もしくは年)」があり、そんな中で平成という時代が定着していったということ。

実質的には、1995年(平成7年)から平成が始まったという解釈である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 取引禁止

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中