最新記事

イギリス

英国でテロ関連逮捕者、白人&極右思想の割合高まる

2019年6月20日(木)17時30分
松丸さとみ

ロンドンの極右活動家 Toby Melville-REUTERS

<英内務省がテロ関連の逮捕に関する統計を発表し、テロに関する逮捕者で、白人が占める割合が最も高かったことがわかった>

白人の割合が13年ぶりに最多

英国内で昨年度、テロに関して逮捕された人たちを人種別で見ると、白人が占める割合が最も高かったことが分かった。

英内務省はこのほど、2019年3月末で終了した昨年度のテロ関連の逮捕に関する統計値を発表。逮捕者数は268人で、前年の443人から40%減となった。

内務省によると、これは2018年度が少なかったというわけではなく、前の2年間(2016年度と2017年度)が多かったからで、「通常の逮捕件数に戻った」だけだとしている。2017年は5月にアリアナ・グランデのコンサートでのマンチェスター爆弾テロ事件(死者22人)、6月にロンドン橋で起こったテロ事件(死者8人)など、死者が出たテロ攻撃が全国で4件発生していた。

逮捕者を人種別(外見からのみの判断で、白人、黒人、アジア人、その他に分類)に見ると、最も多く占めたのは白人で41%。2位はアジア人で36%、黒人12%、その他10%となった。記録が始まった2001年度と2003年度、2004年度は人種別で最も割合が高かったのは白人だったが(2002年度は「その他」)、2005年度以降は「アジア人」または「その他」が続いていたため、白人が最多となるのは13年ぶりとなった。前年比での減少幅はアジア人が1番大きく、2018年度は97人で前年の180人から46%減だった。

欧州全体で広がる反移民感情が背景に

また2019年3月31日の時点でテロ関連で英国内の法執行機関に身柄を拘束されていた人(有罪判決後の受刑者だけでなく起訴前の被疑者を含む)の数は223人だった。イデオロギー(宗教や信条)別では、最も多かったのはイスラム過激派で80%。続いて極右思想が15%、アルスター義勇軍(北アイルランドの英国残留を主張する過激組織)などを含むその他が5%だった。

報告書は、身柄を拘束されていた人のうちイスラム過激派の人数はピークの2017年12月から7%減少しており、一方で極右思想が占める割合は過去3年間で確実に増えているとしている。極右思想の人数は前年度から4人増え33人になった。なお、223人のうち88%にあたる197人が有罪判決を受けて受刑中であり、12%にあたる26人が判決前に勾留されている状態だった。

インディペンデント紙は極右思想の増加について、テロ対策の専門家の話として英王立防衛安全保障研究所のラファエロ・パントゥーチ氏の話を紹介している。同氏によると、「かつては主に孤立した単独犯によるものだったのが、欧州全土に広がる組織的な脅威へと次第に変わってきている」という。

その背景にはさまざまあるが、パントゥーチ氏は、移民やイスラム教徒に関する政治的な議論が欧州全土でなされ、これまであまり容認されていなかった極右的な考えが一般に受け入れられるようになってきたこともあると指摘。これが極右思想の持ち主を後押ししてしまい、脅威を高めているのだとしている。さらに、英国の欧州連合からの離脱(ブレグジット)もその根底には反移民の感情があり、これが英国内での極右思想の増加要因になっているとの考えを同氏は示している。

昨年のテロ関連の逮捕者268人のうち、起訴されたのは90人、不起訴で釈放されたのは69人、捜査は続行しつつ保釈または釈放されたのは93人、移民当局への引き渡しなど刑事処理以外の扱いになったのは15人、データ収集時点で処理未決が1人だった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 予想上

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中