最新記事

中東

米イラン戦争が現実になる日

Teetering on the Brink

2019年6月18日(火)19時20分
ジョナサン・ブローダー

ロウハニ政権はアメリカに「敬意」がない限り対話に応じられないとしている PHOTO ILLUSTRATION BY GLUEKIT, MICHAEL GRUBER/GETTY IMAGES

<制裁を使ったチキンレースの先にはトランプ政権もイラン指導層も望まない本格的な軍事衝突が待ち受けている>

中東にまたも戦火の気配が漂い始めた。

2015年にイランが米英独など6カ国と締結した核合意を、ドナルド・トランプ米大統領が破棄してから1年余り。トランプ政権はイラン経済への締め付けを強化し続けている。

日量250万バレルを誇ったイランの原油輸出は経済制裁によって半減し、イラン経済は急激に悪化している。トランプは「最大限の圧力」政策を掲げて、残りの輸出を標的に。5月にはイラン産原油について8カ国・地域に認めていた禁輸の適用除外措置を打ち切るなど、大幅に制裁を強化した。トランプの最終的な目的はイランを困窮させ、アメリカ及び中東の同盟国に有利な新たな核合意を受け入れさせることだ。

戦争を望んでいないという点では、トランプとイラン指導部の意見は一致している。だが5月の制裁強化以降、中東の緊張は高まる一方だ。

中東の在留米軍に対するイラン軍の不穏な動き、米軍の増派、イランの関与が疑われるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)船籍のタンカーへの攻撃、イエメンのシーア派武装勢力ホーシー派によるサウジ国内のパイプラインへのドローン攻撃。6月13日にはホルムズ海峡付近で日本のタンカーが攻撃される事件も起きた。

その一方で、衝突回避に向けた動きも米イラン双方から突然に湧き出している。イランのハサン・ロウハニ大統領は6月1日、アメリカがイランに「敬意」を払うなら対話に応じることは可能だと発言。マイク・ポンペオ米国務長官も、米政府は前提条件なしでイランと対話を行う用意があると応じた。

だが、両国がどれほど必死に衝突を回避しようとしても「軍事衝突の可能性は残されている」と、歴代の米政権で中東和平交渉に携わったウッドロー・ウィルソン国際研究センターのアーロン・ミラーは指摘する。実際、米政府が湾岸地域の軍備を縮小させる気配はなく、最大限の経済的圧力をかける方針も変わっていない。

イラン経済の生命線である原油輸出がさらに落ち込めば、イラン軍がイラクのシーア派民兵組織に命じて、イラク駐留米軍やアメリカ人外交官らを攻撃させる可能性は十分にあると、オバマ政権下で国防次官補代理(中東担当)を務めたコリン・カールは言う。

トランプ以上の強硬派も

アメリカ人が攻撃されれば米軍がイラクの民兵組織に反撃し、その報復としてイランがペルシャ湾でタンカーを攻撃するかもしれない。対立がさらに高まれば、米軍がイラン国内の核施設などを空爆するシナリオもあり得ると、カールは言う。

そうなればイランは、レバノンのシーア派武装勢力ヒズボラを使ってイスラエルにロケット弾を撃ち込み、多数の死者を出すだろう。それを受けてイスラエルが報復として大規模な反撃に打って出るのはほぼ確実だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中