最新記事

中東

米イラン戦争が現実になる日

Teetering on the Brink

2019年6月18日(火)19時20分
ジョナサン・ブローダー

原油価格が高騰し、イラン陣営の攻撃によってイスラエル人やアメリカ人の犠牲が出れば、米軍をイスラエルに派遣してイランの現体制を一気に葬り去るべきだという強大な政治的圧力がトランプ政権に押し寄せるだろう。その先にはイランへの地上軍派遣と、「トランプもイラン指導層も望んでいない」全面戦争が待ち受けていると、カールは言う。

まさに悪夢のシナリオだ。ただし米政府の対イラン政策は今のところ、トランプが主張する穏健路線と、ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)とポンペオが主張する強硬路線に分裂している。

交渉力に自信を持つトランプは、イランを交渉の場に引きずり出し、オバマ前米政権が制裁解除と引き換えに達成した15年の核合意よりも有利な合意に到達できると確信しているようだ。

一方、ボルトンとポンペオはミサイル開発停止やシリア撤兵など核問題だけにとどまらない新たな合意を結び、中東の大国としてのイランの力を大きく低下させたいと考えている。

「アメリカの強みは、トランプの動きをイラン側が予測できないことだ」と、オバマ政権下で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジェームズ・ジョーンズ退役大将は、米政治紙ザ・ヒルに語る。「ある朝目覚めたら、(イランの)海軍が消えているかもしれない」

あり得ない話ではない。イラン・イラク戦争末期の1988年4月、イラン軍がペルシャ湾に敷設した機雷によって米艦艇が損傷したことへの報復として、米海軍がイラン海軍を攻撃した。米軍にとって第二次大戦以降最大規模の水上戦闘となったこの衝突で、出動中だったイラン海軍の艦艇のうち約半数が沈没・損傷した。

「イランは従来どおりの手法で米軍を攻撃するのではなく、非対称的な形でアメリカの利害関係者を攻撃すべきだとの教訓を得た」と、ミラーは言う。「だから小型潜水艦で湾岸諸国のタンカーに機雷を仕掛けたり、ホーシー派がサウジアラビアのパイプラインにドローン攻撃を行ったりする」

米大統領の「自殺行為」

さらに、イランが核開発プログラムの一部を徐々に再開させるとの見立てもある。そうした行為を止める見返りとして欧州諸国から経済的支援を引き出したり、アメリカとの交渉の材料として利用するためだ。

「イランの立場に立てば、現状は持続可能ではない」と、コンサルティング会社ユーラシア・グループの中東アナリスト、ヘンリー・ロームは言う。「原油を輸出できなければ経済は立ち行かないから、彼らは圧力を緩和させるためにさまざまな手を試さざるを得ない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中