米イラン戦争が現実になる日
Teetering on the Brink
原油価格が高騰し、イラン陣営の攻撃によってイスラエル人やアメリカ人の犠牲が出れば、米軍をイスラエルに派遣してイランの現体制を一気に葬り去るべきだという強大な政治的圧力がトランプ政権に押し寄せるだろう。その先にはイランへの地上軍派遣と、「トランプもイラン指導層も望んでいない」全面戦争が待ち受けていると、カールは言う。
まさに悪夢のシナリオだ。ただし米政府の対イラン政策は今のところ、トランプが主張する穏健路線と、ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)とポンペオが主張する強硬路線に分裂している。
交渉力に自信を持つトランプは、イランを交渉の場に引きずり出し、オバマ前米政権が制裁解除と引き換えに達成した15年の核合意よりも有利な合意に到達できると確信しているようだ。
一方、ボルトンとポンペオはミサイル開発停止やシリア撤兵など核問題だけにとどまらない新たな合意を結び、中東の大国としてのイランの力を大きく低下させたいと考えている。
「アメリカの強みは、トランプの動きをイラン側が予測できないことだ」と、オバマ政権下で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジェームズ・ジョーンズ退役大将は、米政治紙ザ・ヒルに語る。「ある朝目覚めたら、(イランの)海軍が消えているかもしれない」
あり得ない話ではない。イラン・イラク戦争末期の1988年4月、イラン軍がペルシャ湾に敷設した機雷によって米艦艇が損傷したことへの報復として、米海軍がイラン海軍を攻撃した。米軍にとって第二次大戦以降最大規模の水上戦闘となったこの衝突で、出動中だったイラン海軍の艦艇のうち約半数が沈没・損傷した。
「イランは従来どおりの手法で米軍を攻撃するのではなく、非対称的な形でアメリカの利害関係者を攻撃すべきだとの教訓を得た」と、ミラーは言う。「だから小型潜水艦で湾岸諸国のタンカーに機雷を仕掛けたり、ホーシー派がサウジアラビアのパイプラインにドローン攻撃を行ったりする」
米大統領の「自殺行為」
さらに、イランが核開発プログラムの一部を徐々に再開させるとの見立てもある。そうした行為を止める見返りとして欧州諸国から経済的支援を引き出したり、アメリカとの交渉の材料として利用するためだ。
「イランの立場に立てば、現状は持続可能ではない」と、コンサルティング会社ユーラシア・グループの中東アナリスト、ヘンリー・ロームは言う。「原油を輸出できなければ経済は立ち行かないから、彼らは圧力を緩和させるためにさまざまな手を試さざるを得ない」