最新記事

ロヒンギャ

バングラのロヒンギャ収容所は不法地帯に 殺人、暴行、誘拐を行う難民内の犯罪者集団

2019年6月10日(月)15時18分
大塚智彦(PanAsiaNews)

バングラデシュ、ミャンマー両政府の間で難民帰還プロセスが開始されたものの「戻ってもさらに迫害されるだけ」とロヒンギャ族の大半が反発し、帰還は一向に進展していない。 Mohammad Ponir Hossain - REUTERS

<ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの人びとが当局に迫害され、バングラデシュに脱出、難民になってからほぼ2年。だが避難先に作られた難民収容施設ですら安心できる場所ではなくって......>

バングラデシュのミャンマーとの国境近くにあるロヒンギャ族難民の収容施設が犯罪者集団や民兵組織あるいはイスラム教武装勢力とみられるロヒンギャ族によって「支配」され、殺人や暴行、誘拐などの不法行為が蔓延する不法地帯となっていることが明らかになった。

収容施設を管理するバングラデシュ治安当局も警備員増員や警備所増設で対処しているものの、有効な対応策とはなっておらず、命からがらミャンマーから避難してきたロヒンギャ族難民は、避難先でも厳しい環境に追い込まれているという。

これは国際的な非政府組織「国際危機グループ(ICG=本部ベルギー・ブリュッセル)」がこのほどまとめた報告書の中で指摘し、AFPやミャンマーのネット報道機関「ミッチーナ」などが伝えたもので、これまであまり明らかになっていなかったロヒンギャ難民キャンプ内部の実態が浮き彫りとなっている。

ICGはバングラデシュ東部国境地帯にあるチッタゴン管区コックス・バザール県にある複数の難民キャンプでは犯罪集団などのメンバーらが意に従わない難民指導者やキャンプ運営幹部などを次々に殺害や誘拐する事件が発生しているという。

これまでに判明しているだけで2017年以来少なくとも60人が殺害されているとICGは報告している。そうした犯罪者集団に加えて、ミャンマー国内で政府軍と武装闘争を続けるイスラム教武装勢力「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」メンバーで難民になった者の存在も指摘されている。

ARSAによる政府軍攻撃が契機

そもそもロヒンギャ難民が大挙してバングラデシュに避難する直接のきっかけとなったのは2017年8月にミャンマー政府の警察施設をARSAが襲撃し、これに対し警察と国軍が反撃のための掃討作戦を開始したことにある。

仏教徒が多数派のミャンマーでは西部ラカイン州を中心に少数イスラム教徒のロヒンギャ族が居住していたが、ミャンマー政府はロヒンギャ族の国籍を認めず、「バングラデシュからの不法移民」として政治・経済・社会などあらゆる分野でロヒンギャ族を「差別」してきた経緯がある。

ミャンマー政府などは「ロヒンギャ族」という言葉すら公には使用を認めず、彼らを「ベンガリ(ベンガル語を話す人びと)」と現在も呼称している。

ミャンマー治安当局によるロヒンギャ族への弾圧は2017年の8月以降過酷を極め、虐殺、暴行、略奪、放火などあらゆる人権侵害行為が伝えられ、国際社会はミャンマー政府によるロヒンギャ族への「民族浄化作戦」だと非難している。

混乱を逃れるためバングラデシュに逃れたロヒンギャ族は約74万人ともいわれ、バングラデシュ、ミャンマー両政府の間で難民帰還プロセスが開始されたものの、国籍の付与や元の居住地への帰還、国内移動の自由などで条件が折り合わず、ロヒンギャ族の大半が「戻ってもさらに迫害されるだけ」と反発。帰還は一向に進展していないのが現状だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中