バングラのロヒンギャ収容所は不法地帯に 殺人、暴行、誘拐を行う難民内の犯罪者集団
難民キャンプの教育不足をARSAが利用か
こうした状況の中で明らかになった難民キャンプ内での不法行為の数々は、新たなロヒンギャ問題として早急な対応が求められている。
難民キャンプを統括するバングラデシュ当局によると施設内で不法な殺人や誘拐を実行しているのはARSAなどの武装組織ではなく、キャンプ運営を巡るグループによる勢力争いでそのメンバーが違法に武装したり民兵化したりしているに過ぎないとの見方を示している。
しかしICGは報告書の中でバングラデシュ当局がキャンプ内での正規の学校教育を禁止していることを理由に「イスラム教指導者などが私設塾のような教育の場を設置して、そこでイスラム教義に基づく教育を実施していることがARSAなど戦闘集団への同調者を醸成しているとみられる」として私設塾で武装組織のシンパ育成やメンバーの「リクルート」が行われている可能性を指摘している。
複数の難民キャンプはこうしたARSA関係者あるいは犯罪者集団メンバー、武装した民兵組織などが暗躍し、もはや安全な避難場所とは言えない状況に陥っているとICGの報告書は警告している。
夜間は不法地帯と化す難民キャンプ
こうした事態を受けて難民キャンプを管轄するバングラデシュ警察は、警察官の駐在ポストを新たに7か所新設し、合計1000人の警察官の増派で治安維持と情報収集に当たっていると強調している。
コックス・バザール警察のイクバル・ホサイン報道官はAFPに対して「ICGの報告書は誇張されているが、事実無根ではなく、暴力がキャンプで増加しているのは事実である」と不法状態を追認する姿勢を示したという。
これに対しICGは増員された警察官の配置は適正でなく、それも難民キャンプと外周地域の境界を警備するという「バングラデシュ住民の保護」が主任務となっている、と問題点を指摘している。
特に夜間になると難民キャンプで支援活動を行っている人道支援関係者はコックス・バザール市内の活動拠点に戻ってしまい、キャンプ内には難民が任命した訓練も不十分な要員が非武装で警戒に当たるだけというのが現状という。
このためキャンプ内では殺人、誘拐その他のあらゆる暴力がほぼ毎日、夜間に発生しており、犯罪者はなんら法的裁きも受けることなく生活しているという。
難民の多くは犯罪実行者が誰かを知っているものの、報復による殺害を恐れて通報も情報提供も躊躇しており、難民キャンプは文字通り「不法地帯」と化している。
ミャンマー治安当局の暴力を逃れるためにバングラデシュに避難し、難民として不自由な環境での生活を余儀なくされているうえに、その難民キャンプでも暴力に怯えざるを得ないロヒンギャ族の人びとに対し、ICGなどは国際社会の支援とバングラデシュ当局による早急な治安回復が急務としている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など