最新記事

ベトナム

監視国家ベトナム、ネット検閲5倍へ 環境問題の活動家まで実刑に

2019年6月11日(火)19時03分
大塚智彦(PanAsiaNews)

サイバー法と刑法に違反した罪で禁固6年を言い渡されたグエン・ゴック・アイン氏 REUTERS

<中国に代わる世界の工場として各国の企業が熱い視線を送るベトナム。だが、この国は中国同様、一党独裁による監視国家であることを忘れてはいけない──>

ベトナム南部メコンデルタ地方ベンチェ省の省人民裁判所は6月9日、同州在住のエビの養殖業者で環境問題活動家でもあるグエン・ゴック・アイン氏(39)に対し、インターネット上で国家に反する情報提供、拡散などをして国民に不安と混乱を与えサイバー法と刑法に違反した罪で禁固6年、自宅軟禁・保護観察5年の実刑判決を言い渡した。

ベトナム当局はこれまで主に人権活動家や反政府運動家などを対象にして監視、逮捕、起訴、実刑判決と「弾圧」を続けてきたが、アイン氏が実刑判決を受けたことで、その対象が環境問題の活動家にまで拡大し、さらにネット上での活動の監視に力を入れていることを浮き彫りにしたものとして関係者は注目し、警戒を強めている。

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」やCNN、BBCなどのネット版が伝えたところによると、アイン氏は2014〜15年にかけて環境問題を専門とする活動家、ブロガーとして運動を本格的に開始。ベトナムで有害廃棄物を不法に海に投棄して海洋生物を多数死なせるなどの環境破壊を行ったとして、台湾の鉄鋼会社「台湾プラスチックグループ」に対する抗議運動に参加。環境保護を訴える活動を行った。

さらに2015年の国政選挙に際しては政府の政治犯弾圧に抗議して投票ボイコットを訴えるなど、政治的メッセージをインターネット上に掲載したとされている。

判決はネット上での反政府活動を認定

アイン氏は2014年までにFacebookに実名でアカウントを作成したが、本人は「本業であるエビなどの養殖に関する情報交換のためだった」としている。

しかし地元メディアが報じた起訴状によると、2016年4月〜2018年8月までの間、アイン氏は複数のアカウントをFB上に作成。そこで「ベトナム政府に関する歪曲された情報、中傷的な記事をアップして人びとの不安を煽り混乱に陥れた」ことが刑法117条やサイバー法の「政府に反する情報・文書の作成、表示、拡散、伝達など」に違反したと指摘されているという。

これらのFB上のアカウントには2018年3月3日〜5月8日までの間、240万人以上がアクセスして、4万5000人が「いいね」を押し、13万3000人がコメントを残すなどなんらかのアクションをして、大きな反響を呼んだとされる。

さらに今は存在しない「南ベトナム」の国旗に手書きのメッセージを描いた映像をネットにアップしたことが「現在のベトナム政府の転覆を意図した」とみなされたことも罪に問われたという。現在アイン氏のFacebookアカウントは当局によって閉鎖されたとみられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中