最新記事

ベトナム

監視国家ベトナム、ネット検閲5倍へ 環境問題の活動家まで実刑に

2019年6月11日(火)19時03分
大塚智彦(PanAsiaNews)

自宅を出た直後に路上で逮捕

アイン氏のこのような活動はやがて当局の目につき、2018年8月30日に逮捕された。アイン氏の妻グエン・チ・チャウさんから支援者に入った情報によると、アイン氏はこの日仕事から一度帰宅し、自宅で昼食を調理していたという。そこに警察から電話があり「臨時住民票を作成するので警察まで来るように」と言われ、アイン氏は自宅を出た。

その約5分後、アイン氏の逮捕状と家宅捜索令状をもった公安警察官が自宅に押しかけ、アイン氏も歩いていた路上で逮捕されたという。そしてその後の起訴、公判を経て6月5日の実刑判決となった。

判決で同省人民裁判所の裁判官は起訴状の内容をそのまま認め「(アイン被告は)画像、映像、文書を通じて政府当局を歪曲、中傷する情報を捏造してこれを拡散したことで、一般社会に疑念や不安を生じさせた」と判決理由を言い渡した。

判決について妻のチャウさんはRFAなどに対し「夫の罪状は陥れられたものであり、裁判は政府のプロパガンダ、見せしめであり、夫は無実である」と訴え、控訴も検討する考えを示したという。

サイバー監視センターで摘発500%増

RFAによるとベトナム政府のグエン・マイ・フン情報通信相は最近の議会報告の中で、「インターネット上での監視を強化して、何が偽の情報であり、何がゴミであるかを見極めたい」と発言したという。

ベトナム政府はネット企業に令状なしでのユーザー情報提供を義務づけた新サイバー法を今年1月から施行をしたほか、「国家サイバーセキュリティー安全モニターセンター」を立ち上げてネット上の警戒、監視を続けている。そして問題のあるアカウントなどを発見次第「必要なアクションを取る」とし、外国人に関しても例外としないとしている。

フン情報通信相によると、同モニターセンターによる監視活動の結果、過去10カ月でネット上の違法なアカウント、コンテンツの削除は500%増加するなどの実績を残しているとしている。

ベトナム人の良心に呼びかけ

アイン氏は逮捕前にSNSを通じて支援者やベトナム市民にコメントを出していた。そこには「あなたが大学教授であれ、エンジニアであれ、医師であれ、教師であれ、このベトナムが直面する環境問題に対する疑問は心の中の問題として、子供たちの前で回答するか、沈黙するかが求められている」と今起きている環境問題への関心を呼びかけている。

そして「労働者であれ、フリーランスであれ、農民であれ、あえて私は言いたい。専制的な権力は生きた環境を破壊し、生きているベトナム人の健康を損なっているということを」と、ベトナム人の良心に訴えるような内容になっているという。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国航空会社2社、エアバス機購入計画発表 約82億

ワールド

コロンビア、26年最低賃金を約23%引き上げ イン

ワールド

アルゼンチン大統領、来年4月か5月に英国訪問

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃訓練開始 演習2日目
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中