最新記事

極右

ヨーロッパの極右はやはりロシアとつながっていた

2019年5月28日(火)17時30分
チャールズ・タノック(欧州議会外務委員)

蜜月がささやかれるロシアのプーチン(左)とオーストリアのクルツ LEONHARD FOEGERーREUTERS

<オーストリアで露呈したポピュリズム政党とロシアの癒着――無頓着なままではプーチンの思惑どおり欧州が分断される>

5月23~26日の欧州議会選挙は大方の予想どおり、欧州統合を支持し民主主義を守る勢力と、統合嫌いで極端な民族主義を振りかざす極右ポピュリズム勢力の大激戦となっている。

しかし投票日の直前にEU各国で台頭するポピュリズム政党のダークな面を暴く衝撃の事件があった。オーストリアの連立政権を崩壊させた極右政治家の腐敗と癒着、そしてロシアとの疑惑の関係が明らかになったのだ。その闇は恐ろしいほど深い。

オーストリアでは17年12月以降、中道右派の国民党と極右の自由党(ナチス親衛隊の元メンバーが1950年代に結成)が連立を組んできた。ところが先頃、ドイツのシュピーゲル誌と南ドイツ新聞が自由党の党首でもあるシュトラッヘ副首相の隠し撮り映像を公開し、これが原因で連立は崩壊。9月に総選挙が実施されることになった。

問題の映像は17年7月のもので、シュトラッヘが酒に酔い、ロシアの富豪の姪を名乗る女性に便宜供与を約束する様子が映っていた。女性がオーストリアの大衆紙クローネン・ツァイトゥングを買収してくれれば、国内の主要インフラ工事を高値で受注させてやる――シュトラッヘはそう持ち掛けていた。

それだけではない。自分が目指すのは(ハンガリーのオルバン首相がしたように)メディアを政府のプロパガンダ機関にすることだとも、シュトラッヘは豪語している。

今にして思えば、クルツ首相(国民党)が連立交渉において、自由党に国防相と内相という重要ポストを渡したのはあまりにも軽率だった。極右のポピュリズム政治家がロシアのプーチン大統領に操られている事実に、欧州各国の指導者はもっと目を向けるべきだ。

自由党が親ロシアであることも、シュトラッヘが過激な白人至上主義者とつながっていることも、以前から知られていた。しかしクルツは目をつぶって、国の安全保障に関わる重要省庁を自由党の手に委ねたのだ。

フェイクニュースも拡散

内務省(つまり警察権力)を掌握した自由党が、真っ先にやったのは諜報機関への強制捜査だった。極右勢力やロシア系の団体に関する膨大な監視情報を押収したものと思われる。これを受けて、欧州各国の諜報機関はオーストリアとの情報共有を避けるようになった。クルツが「見て見ぬふり」をしたせいで、オーストリアは周辺各国の信頼を失ってしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中