最新記事

イギリス

メイ英首相「辞任」宣言で、強硬離脱の懸念が高まっている理由

2019年5月20日(月)16時55分
ジョシュア・キーティング

しぶとく自身の離脱案を押し通そうとしてきたメイも間もなく辞任? TOBY MELVILLE-REUTERS

<ついに退路を断ち、EU離脱案の可決を目指すメイ。だが、早くも後継レースに参戦したのはあの人物だった。欧州議会選挙の実施が迫るなか、ブレグジットはどうなるのか>

これがイギリスのメイ首相にとって、本当に終わりの始まりになるのだろうか。

ブレグジット(イギリスのEU離脱)危機を悪化させ、政治生命の終焉を何度もささやかれつつもあらがい続けてきたメイ。だからこそ、今後も首相の座に居座り、忌み嫌われている自身の離脱案をゴリ押しするつもりだろう、と勘繰りたくもなる。

だが5月16日の発表によって、メイの去る日が意外に早く訪れそうなことが見えてきた。

メイは同日、与党・保守党内の有力グループと会談。6月第2週に行う離脱協定法案の採決の後、辞任の日程を決めることを承諾したという。退路を断ったメイは、3度にわたり否決された離脱案の可決を再び目指す。

5月初めの地方選挙の大敗を受けて辞任圧力が高まっていたメイにとっては、しばしの執行猶予期間といったところ。6月第2週にはトランプ米大統領の訪英も予定されており、なかなかスリリングな週になるだろう。

今度こそ離脱案を可決させたいメイではあるが、最大野党・労働党のコービン党首との離脱案をめぐる協議は5月17日に決裂した。コービンと交渉を続けてきたのは、自身の保守党内のブレグジット強硬派が、執念深くメイの離脱案に反対し続けるからだ。そこで労働党を取り込もうと、メイは彼らの要求に沿うようEUとの関税同盟のような条項や、雇用保護などを加えることを提案していた。

だがこれでは、コービンにとっては全く物足りない。彼自身も「ブレグジットの国民投票の再実施」という選択肢以外のあらゆる提案に反対するよう、労働党内から圧力をかけられている。この状況では、4度目の否決の運命は避けられそうもない。

ジョンソン前外相が鍵に

そうこうするうちに5月23日には欧州議会選挙が実施される。今頃はEUを離脱しているはずだったから思いもよらない展開だが、この選挙は保守党の立場をさらに悪くする。

保守党の低迷で、離脱派の旗を振るファラージュ党首率いる政党、その名もブレグジット党が票を急激に奪っている。最近のある世論調査によれば、保守党の支持率はほぼ全ての主要政党に抜かれて5位。

欧州議会選挙は一般的に抗議票の意味合いが強く出やすいものだが、もっと懸念されるのはサンデー・テレグラフ紙の世論調査だ。それによれば、欧州議会選挙ではなく英議会選挙を想定しても、保守党は労働党、次いでブレグジット党にも抜かれて3位に落ちる可能性があるという。

【参考記事】 EU離脱:一人ぼっちになったイギリスを待つ悪夢

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中