役人と企業に富、人民には飢えを 中国×ベネズエラ事業「負の遺産」

2019年5月17日(金)15時20分

アンドラ政府は、米国がBPAがマネーロンダリングに関わっていると指摘したことを受け、同行を2015年に管理下に置いた。同国裁判所はその後、BPAの元従業員25人を、ベネズエラ関連も含めたマネーロンダリングで有罪としている。

アンドラ当局は、CAMC絡みの農業プロジェクトのほか、同社の水力発電事業計画や、別の中国国有企業である中国水利水電建設集団(シノハイドロ)[SINOH.UL]が建設した発電所4件についても捜査。これらの発電所がフル稼働したことはなく、近隣の町では停電が常態化している。

ロイター記者が最近、デルタアマクロ州を訪れたところ、CAMCの精米工場は未完成のままだった。コメが入っていたのは、10台あるサイロのうち1台だけで、一部の機械は動いていたが、処理されていたのはブラジル産のコメだった。近くの水田は休耕中で、食品工場は未完成だった。道路や橋も建設されていなかった。

何も生産していない

人口8万6000人のトゥクピタは、デルタアマクロ州の州都だ。南米最大級の河川の1つであるオリノコ川の支流マナモ川のほとりに位置し、かつては内陸の工場からカリブ海などの商人に物資を運ぶ船の停泊地だった。

政府は1965年、マナモ川にダムを建設。船は通れなくなり、淡水が後退して海水が内陸まで入り込むようになった。これにより土地がやせ、1999年にチャベス氏が大統領に就任したころには、農業はあまり行われなくなっていた。

「子供のころは、至るところでコメを育てていた」と、地元の農学者ロゲリオ・ロドリゲス氏は言う。「今は、何も作っていない」

2009年、チャベス氏と、当時、中国の国家副主席だった習近平氏は、2007年の開発合意で作った共同ファンドの拡張に合意した。

「中国に感謝しようじゃないか」。首都カラカスで行われた式典に習氏と共に臨んだチャベス氏は、こう述べた。そして、中国に「向こう500年」石油を供給すると約束しつつ、デルタアマクロ州の地図を指さした。

「習氏よ、見ろ」。チャベス氏はこう呼びかけ、同州を活性化させる計画を発表した。

CAMCのLuo Yan会長のほか、チャベス氏の側近で、PDVSAを率いて石油相も長年務めたラファエル・ラミレス氏も、式典に出席していた。この式典の直後から、開発計画への参入を目論む企業が押し寄せるようになった。

ラミレス氏のいとこで前出のサラザル氏は、絶好の立場にいた。

サラザル氏の父は、元共産ゲリラの文筆家で、後年は議員となりチャベス氏の盟友になった。その息子であるサラザル氏は、カラカスで経営していたコンサルティング会社で、血縁や議員とのコネを存分に利用した。PDVSAの本社近くに構えたオフィスから、ラミレス氏や他の政府高官との面会に頻繁に出かけていた、と周辺者は話す。

ラミレス氏は2014年に石油相を退任し、2017年までベネズエラの国連大使を務めた。その後、マドゥロ氏はラミレス氏が汚職を働いたとして公に批判している。だがラミレス氏はアンドラのケースでは起訴されておらず、ベネズエラでも刑事訴追はされていない。現在はベネズエラ国外に住み、反政府の立場を取る。

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