役人と企業に富、人民には飢えを 中国×ベネズエラ事業「負の遺産」

2019年5月17日(金)15時20分

習氏が出席した式典が行われた当時、チャベス氏はPDVSAを、石油に関係ない事業を多数含む開発プロジェクトの拠点にしていた。PDVSAアグリコーラと呼ばれる部門が新設され、食糧増産に取り組んだ。

事業多角化により、PDVSAには、各種契約や、ベネズエラの開発銀行が管理する資金が集まるようになった。2010年までに、中国国家開発銀行(CDB)から320億ドル、チャベス氏が創立したインフラ整備ファンドから60億ドルが、ベネズエラの開発銀に振り込まれている。

サラザル氏は、強いコネを持つコンサルタントとして、ベネズエラでのビジネスを仲介するため、中国の企業幹部に近づいていった。毎月のように中国に出張し、CAMCなどの企業との橋渡しを頼むため、現地のベネズエラ当局者に金銭を支払い始めた。

「私の仕事は、会議や出張、プロモーションを通じて、契約に署名するよう説得することだった」と、サラザル氏はアンドラ当局の捜査官に述べている。

サラザル氏はアンドラ当局の事情聴取に対し、BPAをオフショア銀行として利用したのは、他の裕福なベネズエラ人が利用していたのを知っていたためだと述べた。ピレネー山脈の静かな谷間に位置するBPAは、高リスク国の顧客の資金を管理する機密性の高い金融機関として知られていた。

アンドラ当局がベネズエラ政府に情報照会を行ったことを受け、ベネズエラの裁判所は2017年、汚職やマネーロンダリングなどの容疑でサラザル氏を逮捕するよう命じた。

サラザル氏のアンドラでの弁護士はロイターへのメールで、中国当局が資金の受け取り企業を決定しており、サラザル氏や仲介者に決定権はなかった、と述べた。

サラザル氏のコンサル会社は、「プロフェッショナル」で「テクニカル」なサービスを多くの中国企業に提供したが、「こうした企業で、実際に事業を受注できたのは、ほんの一握りだった」としている。

もう1人、サラザル氏を支援したと検察がみているのが、元ベネズエラの中国大使で、現在は英国大使を務めるロシオ・マネイロ氏だ。

マネイロ氏は、アンドラの捜査では起訴されていない。同氏の証言に関する検察の捜査書類も含めた様々な裁判所書類は、サラザル氏から受け取った資金や、同氏を中国企業に橋渡ししたことについて、マネイロ氏が「捜査対象だ」としている。

裁判所の書類に含まれていた銀行記録によると、サラザル氏は2010年、マネイロ氏名義の中国の銀行口座に「マネイロ氏が提供したサービス」の代金として3万ドルを送金している。

その後サラザル氏は、マネイロ氏の所有であることが照会書類で確認されたパナマ企業のBPA口座に、計1300万ドルを入金している。マネイロ氏は、弁護士などを通じ、サラザル氏を支援したことや、同氏から金銭を受け取ったことを否定した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中