役人と企業に富、人民には飢えを 中国×ベネズエラ事業「負の遺産」
カリブ海に面したベネズエラのデルタアマクロ州で、中国の建設会社が、故チャベス大統領との間で大胆な合意を交わした。その中国プロジェクトで、数百万人の生活を支えられるようになるはずだった。写真はベネズエラの精米所で作った米の袋に描かれた中国とベネズエラ国旗。2018年撮影(2019年 ロイター/Manaure Quintero)
その中国プロジェクトで、数百万人の生活を支えられるようになるはずだった。カリブ海に面したベネズエラのデルタアマクロ州で、中国の建設会社が、故チャベス大統領との間で大胆な合意を交わした。
この国有企業が、新たな橋や道路、食品工場のほか、ラテンアメリカで最大の精米工場を建設する、というものだった。
ロイターが確認した契約文書のコピーによると、中工国際工程(CAMC)<002051.SZ>が2010年に交した合意は、ニューヨークのマンハッタン島の倍の広さの水田を開発し、地元に11万人の雇用を創出するという計画だった。
ベネズエラの社会主義政府が、貧困層支援という公約への取り組みを示すのに、この未開発の州は格好の場所だった。また、チャベス前大統領と、彼に後継者として指名されたマドゥロ現大統領が、豊富な石油資源を持たない地域の開発のために中国や他の同盟国から協力を得られることを示せる機会となるはずだった。
「コメの力!農業の力だ!」と、当時チャベス氏はツイートした。
9年後の今、地元住民は空腹を抱えている。
実現した雇用はわずかで、精米工場は半分しか建設されておらず、計画の1%未満しか生産していない。地元産のコメは1粒も生産されていないと、同計画に詳しい10人以上の人物が語る。
それでも、CAMCや、ひと握りのベネズエラ側パートナー企業は潤った。
頓挫したこの開発計画を巡って、ベネズエラがCAMCに少なくとも1億ドル(約1100億円)を支払ったことが、契約書や、欧州検察当局が裁判所に提出した捜査書類から分かった。
ロイターが確認したこの書類は数千ページに及ぶもので、アンドラ公国の裁判所に提出された。スペインとフランスの国境地帯にあるアンドラが、計画にかかわったベネズエラ人が契約締結の見返りとして受け取ったキックバックを洗浄する舞台になったと検察は主張している。
アンドラ上級審の裁判官は昨年9月の起訴状で、精米工場建設計画のほか少なくとも4件の農業関連の契約を確実にするため、CAMCがベネズエラの複数の仲介者に1億ドル以上の賄賂を支払った容疑を指摘した。
この時、ベネズエラ人12人がマネーロンダリングやそれを共謀した罪で起訴された。その中には、契約締結を可能にしたと検察側が指摘する元ベネズエラ石油相のいとこのディエゴ・サラザル氏や、当時のベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の中国代表が含まれていた。
関連書類によると、このほかに他国籍の16人が起訴され、当時ベネズエラの駐中国大使で、現在は駐英大使として務める人物を含めたベネズエラ人少なくとも4人が捜査対象となっている。
起訴の事実や、起訴された人物の名前、中国企業との関連は、スペイン紙エルパイスが昨年報じた。ロイターは、アンドラ当局が現在も公表していない捜査書類を検証。CAMCや他の中国企業が、起訴された人物の多くに接近し、契約を勝ち取るために多額の賄賂を渡しながら事業の多くを完成させなかった実態が明らかになった。
その結果、オフショア口座を経由したキックバックの風習がまん延し、人脈を持つベネズエラ人仲介者が私腹を肥やした一方で、立ち遅れた地域の開発プロジェクトが最終的に頓挫することになったと検察は主張している。