最新記事

米中貿易戦争

強気の米中、双方に死角あり「アメリカはまずい手を打っている」

Trump’s ‘Madman Theory’ of Trade With China

2019年5月14日(火)16時50分
キース・ジョンソン

5月1日、北京での協議を終えて報道陣の前に現れた米中当局者たち ANDY WONG-POOL-REUTERS

<トランプが制裁関税を25%に引き上げると発表したが、2大経済大国の貿易戦争はもう避けられないのか。中国経済に詳しいエコノミスト、パトリック・チョバネクが語る見通し>

20190521cover-200.jpg
※5月21日号(5月14日発売)は「米中衝突の核心企業:ファーウェイの正体」特集。軍出身者が作り上げた世界最強の5G通信企業ファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)。アメリカが支配する情報網は中国に乗っ取られるのか。各国が5Gで「中国製造」を拒否できない本当の理由とは――。米中貿易戦争の分析と合わせてお読みください。

◇ ◇ ◇

5月10日、ドナルド・トランプ米大統領は中国からの輸入品2000億ドル相当に対する制裁関税を25%に引き上げることを発表。ワシントンで開催されていた米中閣僚級協議は、合意に達しないまま終了した。

米中貿易戦争は避けられないのか。アメリカと中国の経済にはどのような影響が及ぶのか。中国経済に詳しいシルバークレスト・アセット・マネジメント社のチーフストラテジスト、パトリック・チョバネクに、フォーリン・ポリシー誌のキース・ジョンソンが聞いた。

――今後、米中が合意に達する可能性はまだ残されているのか。それとも、貿易戦争の長期化を覚悟するほかないのか。

現状では、米中両国共に強気で交渉に臨んでいる。中国は、自国経済の先行きを不安視していた昨年後半の段階ではアメリカの強硬姿勢に恐れをなしていたが、今はもう違う。景気を刺激することに成功したと自負し、通貨の人民元を元安に誘導することは可能だという自信も抱くようになった。その結果、貿易交渉では自分たちのほうが強い立場にあると思っている。

一方のトランプも、今年第1四半期のGDP成長率が3.2%を記録したことで強気になっている。アメリカ経済は至って順調で、中国との関税合戦によりダメージを被ったとしてもかすり傷程度にすぎないと考えている。

もっとも、私はどちらの政府の考え方にも疑問がある。まず、アメリカ経済の状態は数字ほどよくない。中国にとっても、貿易問題が最大の懸案ではないにせよ、通商環境が厳しくなればほかの問題に対処することが難しくなる。両国とも、自国の置かれた状況を楽観し過ぎている。

――関税の引き上げは、アメリカ経済にどれくらい大きな影響を及ぼすと思うか。

GDPが3.2%上昇したといっても、主に在庫の増加と輸入の減少を反映しているにすぎない。この2つは、景気に関して強気になれる材料ではない。事実、国内需要の伸びは、昨年第2四半期には4%を超えていたのが、今は1.5%まで落ち込んでいる。アメリカ経済が不況に突き進んでいると決め付ける必要はないが、景気減速が際立っていることは間違いない。

しかも、中国が本気でけんかをする気になれば、人民元の切り下げに踏み切りかねない。中国もダメージを受けるが、「やられた以上はやり返したい」と思えば、それを実行する可能性はある。そうなれば、アメリカ経済に厳しい逆風が吹き付ける。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明らかに【最新研究】
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 7
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中