ミャンマー、ロヒンギャ迫害取材の記者2人釈放 大統領恩赦はスー・チー苦肉の策か
国家機密法に違反したとして有罪判決を受け収監されていたワ・ロン記者(33、左)とチョー・ソウ・ウー記者(29、右)が自由の身となった。(2019年 ロイター/Ann Wang)
<国際的な人道問題となったミャンマーでのロヒンギャ族迫害。その取材をしていた現地記者が不当逮捕され服役していたが、急転直下で釈放となった>
ミャンマーのウィン・ミン大統領は5月7日、国家機密法違反で禁固7年の実刑判決を受けて服役中だったロイター通信のミャンマー人記者2人へ恩赦を与え、2人は即時釈放された。背景にはアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相が進める民主化政策の真価を問う国際世論や人権団体などによる批判が影響したものとみられている。
恩赦の決定を受けて釈放されたのはロイター通信ヤンゴン支局のワ・ロン記者(33)とチョー・ソウ・ウー記者(29)。2記者は服役していたミャンマー中心都市ヤンゴン郊外のインセイン刑務所を出所。取材中のロイターのカメラマンに笑顔で手を振って釈放の喜びを表したという。ロイターがいち早く伝えたほか、各国の主要報道機関が相次いで報じている。
2記者は2017年8月にミャンマー西部ラカイン州で少数イスラム教徒ラカイン族の住民10人が治安部隊によって殺害された事件を精力的に取材していた。
ところが同年12月12日に警察官に呼び出されて書類を手渡された直後に別の警察官によって「国家機密に関する書類を違法に所持していた」として国家機密法違反容疑で逮捕、起訴されていた。
2記者や所属するロイター通信は一貫して無罪を主張し「真実の報道を沈黙させるための警察のでっちあげであり、私たちはその犠牲者である」「無罪を証明するために可能な限りのことを行って釈放を目指す」などとして公判に臨んでいた。
警察官の内部告発も証拠採用されず
ところが2018年4月20日の予審で検察側の証人として出廷した現職の警察官が「2人の逮捕は警察が仕組んだもの。2人に書類を渡した後、逮捕するように警察幹部から命令された。逮捕しないとお前が刑務所に行くことになると脅された」と衝撃的な証言を行った。
こうした検察側に圧倒的に不利な証言が予審で出たにも関わらず、裁判所は裁判を継続。この警察官の証言を有力な冤罪、そして無罪の証拠としては採用せず、2018年9月3日に禁固7年の有罪判決を下した。
警察の暗部を告発するともいえるこの重要な証言を行った警察官は、その後警察に身柄を拘束され、官舎に住んでいた家族も追い出されたなどの報道があったが、その後消息に関する一切の情報が途絶えており、安否が気遣われているという。