最新記事

中東

アルジェリアに遅れて来た「アラブの春」の行方

After the Victory

2019年4月16日(火)16時30分
サビーナ・ヘネバーグ(ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院博士研究員)

IMFもアルジェリア経済について懸念を表明している。外貨準備が減少し、公的債務が増加し、失業率はいつまでたっても下がらない。公共投資は非効率な一方で、民間の投資を妨害している側面もある。政府は歳出削減を強いられており、社会保障支出の一部には手を付けないと約束しているものの、国民の間では不安が高まっている。

景気後退は、弱者層に最大の打撃を与えてきた。政府は公共住宅の整備に莫大な投資をしてきたが、農村部から都市部への大規模な人口移動により(これは内戦で農村部が荒廃したせいでもある)、都市部では深刻な住宅不足が起きている。

医療分野や教育分野の物資不足も深刻だ。それはデモ参加者に多くの医者や学生が交ざっていることに表れている。生活水準が低下したため、特に若者の国外流出が進む一方で、近隣諸国から流入する難民や移民への対応に政府は苦慮している。経済改革に取り組むには、しっかりしたリーダーシップが必要だが、当面は政治情勢の安定化が優先されそうだ。

他方、民主化などの政治改革にも不安が付きまとう。ブーテフリカの退陣を求める抗議運動は一応成功したものの、その内部では足並みの乱れが目立ち始めた。反体制派の統括団体が3月末に「改革のプラットフォーム」という声明を発表したときは、複数の下部組織が拒絶反応を示した。その中にはイスラム過激派との関係が疑われる組織もあるとされる。

過激派が勢いづく恐れ

反体制派には明確なリーダーもいない。3月半ばにブーテフリカが、反体制派を含む政治会議の開催を呼び掛けたとき、外交官のラクダル・ブラヒミ元国連シリア担当特別代表が議長に指名された。しかしブラヒミはブーテフリカに近く、反体制派のリーダーにはなり得ないというのが一般的な見方だ。

反体制派から信頼の厚い人物としては、人権弁護士のムスタファ・ブシャチがいるが、ブシャチ自身は、若い世代がリーダーシップを握るべきだと考えているという。

外国の干渉を受けるリスクもある。ロシアは近年、北アフリカで影響力を拡大しつつあり、アルジェリアともエネルギー取引や武器取引など経済関係を強化している。ということは、ロシアにとっては、ブーテフリカ体制(と軍が政治に強い影響力を持つ体制)が続いたほうが都合がいいはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.3%

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中