最新記事

韓国経済

「日本越え」韓国経済の落とし穴

2019年4月3日(水)17時00分
武田 淳(伊藤忠総研チーフエコノミスト)

また、高い所得水準を維持するためには、グローバル競争の中を生き抜く高い技術力が幅広い分野で求められるが、対日・対欧貿易赤字が示す通り、現状において韓国は、主力産業である半導体や家電、自動車など多くの分野で、競争力維持のため高品質な生産設備や部品、原材料を日本や欧州からの輸入に依存している。具体的な数字を示すと、韓国は2018年、697億ドルの貿易黒字を稼ぎ、国・地域別では中国(含む香港)996億ドル、ASEAN主要国406億ドル、米国139億ドルが黒字の上位国に並んだ一方で、産油国の多い中東は645億ドル、鉄鉱石の産地である豪州を含む大洋州も88億ドルの赤字であり、日本も241億ドル、EUも46億ドルの赤字であった。

そのため、中長期的に見れば韓国は技術面で先行する日米欧を追いかけてはいるが、工業国として急速に力をつける中国に追い上げられ、成長余地は狭まる一方である。グローバルな競争力が低下すれば、ウォン相場安定の源泉である貿易収支の黒字幅は縮小、場合によっては赤字に転じる可能性すらある。いかにして今後も技術力、製品力を高めていくかが持続的な成長への大きな課題であり、その道のりはこれまでのように他の先進国によって踏み固められた平坦なものではない。

日韓の「ケンカ」で得するのは誰か

さらに言えば今後、アジア各国が米中2大国の狭間でそれぞれの立ち位置を模索する中、高い中国依存の経済構造は必ずしもバランスの良いものではなく、既に取り組みつつある脱中国依存の動きを加速させる必要があろう。そのうえで、米中と適度な距離感を保ちつつ自国の利益を確保するため、自らの存在感を両国に十分認識させる必要がある。しかしながら、それを単独で実現することは、特に中国の経済成長によって徐々に困難となっていくであろう。

前述のような日本と韓国の貿易関係を見れば、両国が相互依存の下で経済成長を続けていることは明らかで、米中が軸となる新たなグローバル市場において一定の存在感を維持するために、経済的な連携は一段と重要となるはずである。政治的な対立によって日韓両国が競争力を削がれることで、誰が利益を得るのか――。経済的な観点から、日韓双方に冷静かつ合理的な判断が求められるということだろう。

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中