ブレグジットでトイレの紙もなくなる⁈
そうはいっても、合意なき離脱が現実になったら、この手の悪循環的なパニックが起きるのは避けられない。16年6月の国民投票でブレグジットが決まって以来、合意なき離脱の回避や2度目の国民投票実施を狙って、イギリスではパニックをあおる動きが続いてきた。
トイレットペーパーをめぐる「パニック工作」では既に、デニス・マクシェーン元労働党下院議員が旗振り役と化している。イギリスには1日分のトイレットペーパー備蓄しかないと、マクシェーンは主張。事実に基づかない発言だが、「イギリス人は昔のように新聞の切れ端で尻を拭かなければならなくなる」と言えば、不安をかき立てる上で実に効果的だ。
パニック買いのせいで、合意なし離脱と同時に店頭からトイレットペーパーが消えたら、期待の目は国際物流の拠点に向かうだろう。だが貿易体制についても楽観的には到底なれない。英製紙業界は輸入頼み。長年にわたる貿易協定から突如、国家が脱退しかねないなか、特に不安定な立場に置かれている。
離脱後は「不確実」だらけ
合意なしの離脱になれば、イギリスが当然のものとしてきたEU内の自由で摩擦のない貿易は終わる。新たに関税や証明書や基準が導入され、書類手続きが必要になり、供給業者と消費者の双方にとって金銭的・時間的コストが上がる。
英政府はつい最近まで合意なき離脱の可能性を真剣に受け止めていなかったが、ここへきて、英経済に短期的かつ長期的に大きな悪影響を与えるだろうと認め始めた。輸入フローの途絶は、なかでも喫緊の懸念だ。
問題は関税だけではない。摩擦のない貿易の廃止で、イギリスに入る物品は全て検査を受けることになる。
英政府は2月4日、合意なき離脱の場合、関税の後払いなどを可能にする税関簡易手続きを導入すると発表した。それでも、本質的な問題は解決されていない。ブレグジットの要点はイギリスとEUの間に一線を画すること。そのためには、厳格な国境管理が欠かせない。
合意なき離脱後の混乱はどんなもので、どれほど続くのか。買い占め騒動は起きるのか。それとも、英国民は冷静に「通常どおり」を続けるのか。
答えは、ブレグジットにまつわる多くの物事と同じく、はっきりしない。分からないから、トイレットペーパーや生鮮食品の供給も、外国人居住者の法的地位も航空機の運航も、さまざまなことが危ぶまれている。
ブレグジットの危険性を訴えるのは、16年当時も今も拒絶されるだけのむなしい仕事だ。同時に、それは嘘と隣り合わせでもある。例えば、EU離脱に伴う失職者数は20万人とも言われたが、今では5000~1万3000人ほどとみられている。