最新記事

資本主義

「途上国支配に最も有効な方法は債務漬けにすること」ジグレール教授の経済講義

2019年3月8日(金)10時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Panama7-iStock.

<資本主義とは何か。格差の現実をどう理解すべきか。今こそ知るべきこれらのテーマについて、スイスの政治家であり社会学者ジャン・ジグレールが平易に解説する(シリーズ第2回)>

グローバル化が進む中、「格差」や「貧困」が大きな問題として取り上げられることが増えてきた。「世界人口の約半数と同じ富がわずか26人の富裕層に集中している」(国際慈善団体オックスファムの最新のレポート)といった格差の「現実」が報道されるたび、激しい反発を引き起こす。

貧困と社会構造の関係について人道的立場から発言を続けるジャン・ジグレールは、スイスの政治家であり社会学者。そうした資本主義の「負の側面」を語るのにうってつけの人物だ。

そもそも資本主義とは何か。途上国の負債がふくらみ続けるのはなぜか。格差が「人を殺す」とはどういうことか。

こうした疑問を出発点に、できるだけ平易な解説を試みたのが、ジグレールの新著『資本主義って悪者なの?――ジグレール教授が孫娘に語るグローバル経済の未来』(鳥取絹子訳、CCCメディアハウス)だ。

ここでは本書から一部を抜粋し、3回にわたって掲載する。この第2回ではジグレールが孫娘のゾーラに、途上国の債務の「隠された真実」について解説する。

※第1回:「給与所得者の保護政策はどの国でも後退している」ジグレール教授の経済講義

◇ ◇ ◇

7 隠された真実――発展途上国は先進国への債務返済に追われている

でも、豊かな先進国は発展途上国の人たちが食べられるよう、たくさん支援しているんじゃないの?

――いや、それが違うのだよ、ゾーラ。実際に起きているのはまったく逆のことだ。貧しい発展途上国の人たちは、先進国にお金を払うために必死に働いているのが現実だ。彼らは、先進国のとくに支配者階級にお金を払っているのだよ。現在、発展途上国を支配するのにもっとも有効な方法は、債務漬けにすることだ。

お金の流れは、「発展途上国 → 先進国」のほうが、「先進国 → 発展途上国」より多いのだよ。貧しい国々が豊かな国に年間支払うお金は、人道支援や開発援助と称して、投資の形で受けとる金額よりも多くなっている。

人々を支配するのに、機関銃やナパーム弾、装甲車などはまったく必要ない。現在は債務で事がすんでいる。そうして、たとえばアフリカ大陸ではとんでもないことが起きている。アフリカの人々の35.2パーセント以上が深刻な栄養不良に陥っているのだ。

だけどなぜ? 学校で習ったのは、アフリカには肥沃(ひよく)な土地がたくさんあって、人口密度も低い。だから、みんなのための土地がある!

――こういう状況になったおもな原因は、まさにこれらの国が負う債務にある。これについては説明が必要だろうね。

債務には2つあり、国が負う債務の「ソブリン債」(外国通貨建て国債)と、それと民間企業が負う債務を合わせた「グローバル債」を区別しなければならない。

そしてここではソブリン債だが、発展途上国すべてを合わせた総額は――ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカは新興国に属するので除く――、2016年、1兆5000億ドルを超えるという天文学的な数字になっている。

この債務が、貧困国にとって金縛りのようになっている。どういうことになっているのか、説明しよう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中