食品業界値上げ続々、それでも上がらぬインフレへの期待 将来不安の影大きく
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食品業界を中心に値上げの動きが相次いでいる。大型ペットボトルや即席麺、サバ缶、冷凍食品、アイスクリーム、スナック菓子、コーヒーなど幅広い範囲で価格上昇が始まった。写真は都内で2014年2月撮影(2019年 ロイター/Yuya Shino)
食品業界を中心に値上げの動きが相次いでいる。大型ペットボトルや即席麺、サバ缶、冷凍食品、アイスクリーム、スナック菓子、コーヒーなど幅広い範囲で価格上昇が始まった。ただ、専門家からは今回の値上げが人々のインフレ期待に火をつける可能性は低いとの見方が出ている。
企業経営者からも、将来にわたって社会保障制度が安定しているという「安心感」がない現状では、消費を手控えて将来に備える動きが継続し、物価が上がりづらい状況が続くとの見通しが出ている。
物流費の上昇に悲鳴
「人件費・物流費の上昇を吸収したいが、吸収しきれない」(味の素の西井孝明社長)、「われわれは耐えて耐えてここまできたが、コスト削減ではまかなえない」(コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスの吉松民雄社長)──。昨年後半から今年にかけて、値上げを発表した企業経営者の口から飛び出したのは、物流費・人件費の上昇に対する悲鳴にも近い声だった。
今回の値上げはこれまでと違い、原材料価格の上昇よりも、人手不足による人件費や物流費の上昇を転嫁するケースが多いのが特徴だ。
実際、日銀の「企業向けサービス価格指数」によると、宅配便やトラック運送など道路貨物輸送の価格は、2010年から1割超上昇している。
サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、2月15日の会見で「猛暑で(量が出るのに)収益が上げられないというのは考えづらい」と、現下の収益構造を嘆いた。同社は人工知能(AI)やロボットの活用などを通じ、サプライチェーンコストを下げていく方針だ。
身近な商品の影響受ける物価観
日銀が物価上昇2%を目標に掲げて「量的・質的金融緩和」を導入してから、4月で丸6年となる。この間、全国消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比は一時1.5%(消費増税の影響除く)まで上昇したが、その後、原油価格の下落や消費増税による需要の弱さが足を引っ張り失速。現在も2%には届いていない。
日銀は、1)2%の物価目標に強くコミットすることで、予想物価上昇率(インフレ期待)を引き上げる、2)大量の国債を購入することで名目金利を引き下げる──の合わせ技で、実質金利を押し下げようとした。
その結果、前向きの循環メカニズムが働き出し、最終的に需給の引き締まりによる物価上昇を目指してきたが、物価の動きは鈍いままだ。
インフレ期待、すなわち物価観は人々の主観に基づくため、多様でばらつきが大きい。先行研究では、1)実際の物価上昇率よりも上振れて推移している、2)5の倍数などきりの良い数字が多い──などの性質があることがわかっている。
また、短期的には食料品やガソリンなど購入頻度の高い財・サービスの影響を受けやすく、内閣府の消費動向調査をみると、年齢や性別、年収、地域によっても異なる傾向がある。
日銀が「生活意識に関するアンケート調査」(13年9月調査)で5年後の物価予想の根拠を聞いたところ「ガソリン価格の動向をみて」との回答がもっとも多かった。
以下、「頻繁に購入する品目(食料品など)の価格の動向から」、「商品・サービスの価格や物価に関するマスコミ報道を通じて」と続いており、一部の先行研究と整合的な結果となっている。