食品業界値上げ続々、それでも上がらぬインフレへの期待 将来不安の影大きく
物価上昇実感も継続は「考えにくい」
では、身近な商品である食品の相次ぐ値上げは、人々の物価観に影響を与えるのか。一橋大学経済研究所の阿部修人教授は「仮に今回、人々が物価の上昇を実感したとしても、今後も上がり続けるとは考えにくいのではないか」との見方を示した。
日銀は16年9月に公表した異次元緩和の「総括的な検証」で、日本のインフレ期待は、過去の物価上昇率に引きずられやすいとの見解を示した。
だが、阿部教授らが15年に全国2万人を対象に行った実験では、人々は信頼できる新しい情報が入ると、期待形成を変化させることがわかっている。
上がらないインフレ期待の背景に、何があるのか。阿部教授は「今の金融政策に物価を上げる力がないから、人々は物価上昇を予測しない可能性がある」と指摘する。人々が合理的に期待を形成しているのであれば「値上げまでかかった年数を考えると、次の値上げは当分ないと思っても不思議はない」という。
前回、インフレ期待が高まったのは資源価格が高騰した2008年のリーマンショック前だった。当時は中国経済の巨大化が資源価格をどこまで押し上げるかわからず、不透明感が強かった。
これに対して、現在の物価上昇は「程度も大したことではなく、経済見通しも高い物価上昇が続くような状況からは程遠い」(阿部教授)。
阿部教授は「食料品の支出全体に占める割合も考えると、昨今の食品値上げが一般物価上昇期待につながるというリンクは、弱くても不思議ではない」と指摘している。
構造的問題で財布の紐固く
今回の値上げは、人手不足による人件費・物流費の上昇が主因で、人手不足の背景には人口減による労働者不足がある。エコノミストの中には、経済の前向きな循環というより、構造的な問題が要因との分析が多い。
サントリーHDの新浪社長は、ロイターに対して「国民は人口減と高齢化で、経済成長が大変だということを良くわかっている。値上げが受けれられるためには社会保障改革が必要だ」と述べ、構造改革の必要性を訴えた。
味の素の西井社長も「社会保障費の問題が大きく底流にあって、可処分所得が増えていないのに、そんなに財布のヒモを緩められないというのが本音だと思う」と口をそろえた。
将来に対する確信が持てなければ、仮に賃金が上がっても、消費には回らない。結果として、経済・物価の体温が上がりにくい状況が続く。
阿部教授は「本当にインフレ期待が上がってないことが、今の日本経済の問題の根幹なのか。よく考えないといけない」と指摘している。
(志田義寧 取材協力:清水律子 編集:田巻一彦)
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