インドネシア・パプアで豪雨による洪水被害拡大 死者100人超、森林伐採が影響か
1月にはスラウェシでも被害、30人死亡
インドネシアは雨期が終盤に近づく1月以降はそれまでに降った雨水が山間部に蓄えられていることなどから、豪雨が続くと一気に土砂崩れや土石流が発生して被害がでることがある。
2018年1月22日から23日にかけてスラウェシ島南スラウェシ州で降り続いた豪雨では、州都マカッサルやその東に隣接する北から南へマロス県、ゴワ県、ジュネポント県の各地で土砂崩れや河川増水による洪水、堤防決壊などが発生し死者30人以上、3400人が避難、家屋の浸水約3000戸という被害が出ている。
ジャカルタなどの都市部でも下水処理や河川の増水対策が不十分なことから、豪雨が数時間続いただけで、主要道路を含めて各地点で冠水が発生し、大渋滞となることも珍しくない。
そうしたインドネシアに対して日本はいろいろなフェーズでの技術提供やコンサルティングなどで洪水対策を支援しているが、まだまだ道半ばというのが現状だ。
パプアの特殊事情も背景か
パプア州と西パプア州は以前イリアンジャヤ州としてインドネシアでも最も開発が遅れている遠隔地であった。そうした地理的要素に加えて、1998年に民主化運動の高まりを受けて崩壊したスハルト長期独裁政権下では東ティモール州、アチェ州と並んで独立組織による武装闘争が続いていたという政治的にも特別な地域に位置付けられていた。
国軍による「軍事作戦地域(DOM)」に指定されて治安維持のために投入された国軍部隊による多くの人権侵害事件が報告され、ジャワ島などからの国内移民政策で急速に「脱パプア化」が図られるとともに、豊かな天然資源の開発が環境破壊も顧みられることなく急ピッチで進んできた経緯もある。
インドネシア最大の環境保護団体「ワルヒ(インドネシア環境フォーラム)」が今回のセンタニ地区の被害に関して「センタニ近隣の山の大規模開発による森林伐採で、土石流が居住地区に流れ込み、被害が拡大した可能性が高い」と述べて、自然災害に人災の要素を指摘していることには注目するべきだろう。
今でも細々とだが、独立組織「自由パプア運動(OPM)」による武装闘争が続くパプア州。大規模な洪水や土砂崩れとは直接関係はないものの、不法な森林伐採や乱開発が被害拡大の一因であるとするなら、パプア州が置かれた特殊な事情もあながち無関係とは言えないのではないだろうか。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など