最新記事

ニューズウィークが見た「平成」1989-2019

平成は日本人に「無常」を教えた──バブル崩壊から原発事故、そして次の「非常識」

The Lesson of Impermanence

2019年2月14日(木)11時30分
長岡義博(本誌編集長)

東日本大震災の大津波にも流されなかった「奇跡の一本松」 KIM KYUNG HOON-REUTERS

<バブル崩壊に阪神淡路大震災、東日本大震災、そして福島原発事故。常識を覆され続けた日本人を、次の「非常識」が待っているかもしれない>

※ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE「ニューズウィークが見た『平成』1989-2019」が好評発売中。平成の天皇像、オウム真理教と日本の病巣、ダイアナと雅子妃の本当の違い、崩れゆく大蔵支配の構図、相撲に見るニッポン、世界が伝えたコイズミ、ジャパン・アズ・ナンバースリー、東日本大震災と日本人の行方、宮崎駿が世界に残した遺産......。世界はこの国をどう報じてきたか。31年間の膨大な記事から厳選した、時代を超えて読み継がれる「平成ニッポン」の総集編です。
(この記事は「ニューズウィークが見た『平成』1989-2019」収録の書き下ろしコラムの1本)

◇ ◇ ◇

平成3年(1991年)に毎日新聞の記者として社会人生活をスタートした私にとって、「平成」は取材対象そのものだった。平成18年(2006年)に弊誌に移ったが、今でも最も強く記憶に残っているのは平成7年(1995年)1月17日に起きた阪神淡路大震災だ。

当時、神戸支局員だった私にとって、忘れられない地震発生直後の光景がある。見渡す限り爆撃跡のような瓦礫の山に囲まれた道を、打ちひしがれた被災者の列が続く。どの手もジュースやウーロン茶のペットボトルと食パンが入ったビニール袋を抱えている。

大地震が起きたばかりの被災地は物流が止まり、ガスや電気が使えない。物流が止まれば食料はすぐに底を突き、ガスや電気がなければ調理もできない。そのことを直感的に察した被災者たちは、自宅の冷蔵庫にあった食パンとペットボトルの飲料を真っ先に持ち出した。物流と電気・ガスが止まった被災地で、食べられない紙幣や硬貨など何の価値もない。

なぜかあの頃の日本では、「関西で大地震は起きない」という迷信が真理であるかのように語られていた。何の根拠もない。思い込み、いや、むしろそれは「あってほしくない」という願望の反映だったのだろう。起きるはずのない大地震に直撃された結果、神戸や阪神地区、淡路島で無防備な人々はカネに対する信用が消えたいわば原始社会に突然放り込まれた。そして6400人余りの命が失われた。

平成は日本人に「無常」を教えた時代だった。高度経済成長という全てが右肩上がりの社会に慣れ、後に「バブル」と定義されるハイパー好景気の時代を生きた人々には、それこそが疑いなき日常だった。享楽の日々がいつか終わると予想した賢者はごく少数派でしかなく、だからこそ大半の日本人は宴の終わりに呆然と立ち尽くすしかなかった。

バブル経済の崩壊と阪神・淡路大震災で「無常」を学習したはずの日本人だが、平成23年(2011年)の東日本大震災でも再び「高額の授業料」を支払って無常を学ぶことになった。全く想像を超える規模の大津波、そしてチェルノブイリ事故に次ぐレベルの被害をもたらした福島第一原発の放射能漏れ事故。巨大津波で壊滅的な被害が出た仙台市の地区では、4キロ内陸にまで海水が押し寄せた。宮城県の浸水想定はそのわずか40分の1の100メートルだった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中