小学校がHIV感染児童14人を強制退学 インドネシア、感染恐れる父兄が学校を脅迫
背景にある根強い差別意識と誤解
AIDS(後天性免疫不全症候群)の発症につながるHIV感染は、その80%が性交渉による感染でその他に血液感染、母子感染などがあるが、普通に学校生活を送っているだけでは感染の危険はほとんどない。
しかし、インドネシアではこうした感染症に関する教育、啓蒙活動がほとんど行われておらず、HIV感染とAIDS発症が同じと思われ、なおかつ一般の伝染病のように日常生活の中での感染を恐れるような考え方が蔓延しているのも事実だ。
こうした誤解に基づく偏見は差別意識を醸成したり、助長することで、少数者排除に結びついていると指摘されている。
さらに問題を複雑にしているのが世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアの現状である。イスラム教の教えに反するとされる同性愛での感染も多いことから、HIV感染者には不道徳さや不潔感を抱く国民も多く、それがなんら責任のないHIV感染児童への差別に繋がっているというのが現実である。
国連エイズ合同計画(UNAIDS)のまとめた統計によると2017年のインドネシアの新規HIV感染者は49,000人で、AIDS関連の死者は39,000人で、HIV感染者の総数は630,000人となっている。
インドネシア保健省は2030年までの「AIDS終息」を目標に掲げ、HIV/AIDS対策を推進しているが、一般国民のレベルでは依然として差別、偏見が強く残っており、社会教育や学校教育の場でのさらなる感染症対策、そして啓蒙活動も同時に求められている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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