最新記事

家族

フランスの学校、同性婚家族への配慮で「父」「母」の呼び方を「親1」「親2」へ

2019年2月21日(木)18時15分
松丸さとみ

学校を訪れるマクロン大統領 REUTERS-Ludovic Marin

<フランスでは、学校が「父親」「母親」という言葉を使用しなくても済むよう法律を修正する案が国民議会(下院)で可決した>

ゲイの両親を持つ子への配慮

日本では先日初めて、同性婚を認めないことの違法性を問う裁判が始まったが、2013年に同性婚がすでに合法化されているフランスではこのほど、学校が「父親」「母親」という言葉を使用しなくても済むよう法律を修正する案が国民議会(下院)で可決した。

フランスでは現在、「学校への信頼を取り戻す」というスローガンのもと教育改革が進められている。下院で可決したこの修正案もその一環で、学校が書類などに「父親」や「母親」などの言葉を使うのをやめ、「親1」や「親2」という表現を使うことができるようにするものだ。このあと、上院で採決されることになる。

与党の共和国前進はこの修正について、フランスの学校を、2013年に成立した同性婚を合法とする法律に即したものにしていくのに必要なステップと捉えている。両親が同性婚で必ずしも「父親」と「母親」がいるわけではない家庭の子供が、こうした言葉を使わずに済むようになるのだ(本誌米国版)。

テレグラフ紙によると、共和国前進のヴァレリー・プティ議員は、「父親」や「母親」のどちらかに印をつけなければいけないチェックボックスが付いた、学校から家庭に渡される書類を例に挙げて次のように述べた。「こうした古めかしい社会モデルや家族モデルに固執したチェックボックスに不本意ながら直面しなければならない家庭がある。我々にとってこの条項(今回加えられた修正)は、社会的平等の程度を測るものだ」。

またフランス最大の保護者会統括組織FCPEPのロドリゴ・アレナス会長は、「子供がいじめられる時は大抵の場合、普通と違うというのが理由でターゲットにされてしまう」とし、今回の修正は「非常にいいこと」だと歓迎した。

どっちが「親1」で「親2」?で序列を作りかねない

とはいえ、少なからず反対意見も上がっている。共和党のグザヴィエ・ブルトン氏は今回の修正について、「現実に呼応しない政治的な考えによるものだ」とし、「(父・母が)古めかしい形だと言っているのを聞くと、現在のフランスにおける結婚の95%は男女の夫婦だと指摘したくなる」と述べた。

また、同性婚に反対する組織「LMPT」の代表者リュディヴィーヌ・ド・ラ・ロシェール氏は、親を「1」や「2」などとすることについて「全くもって非人間的な扱い」だと反発した。

極右政党である国民連合のマリーヌ・ルペン党首は、今回の修正が、マクロン政権の家族観は家族を侮辱したものだということを示しており、同政権の「仮面が剥がれた」と述べた。

同性婚両親のための協会AFDHは、同性婚の両親が学校の記入欄に取り入れてもらえることを歓迎する一方で、「親1」は誰で「親2」は誰なのか、と両親の間に序列を作りかねないと警告。それよりも、「父親、母親、法定代理人」のような包括的なものにするよう求めた。

なおテレグラフによると、「父」「母」をやめ「親1」「親2」とする話は、2013年に同性婚を法制化した際の議論にも出ていたものだった。しかし当時、ジャン=ミシェル・ブランケール氏(現在の国民教育相)がこれは国レベルで立法化されるべき問題ではないと反対したこともあり、法案に盛り込まれなかったという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ

ワールド

米、ロシアが和平合意ならエネルギー部門への制裁緩和

ワールド

トランプ米政権、コロンビア大への助成金を中止 反ユ

ワールド

ミャンマー軍事政権、2025年12月―26年1月に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 5
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中