最新記事

インドネシア

200人以上が死亡したバリ島爆弾テロ事件の黒幕、釈放へ 人道的見地か大統領選への戦略か

2019年1月21日(月)21時16分
大塚智彦(PanAsiaNews)

突然の釈放が論議を呼んでいるイスラム過激派の黒幕バシル服役囚  Darren White - REUTERS

<日本人の犠牲者も出たインドネシア・バリ島での爆弾テロ事件。その黒幕とされる人物が大統領によって突如釈放されることになった──>

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は1月18日にイスラム教テロ組織「ジェマ・イスラミア(JI)」の精神的指導者で、2002年や2005年のバリ島爆弾テロ事件の黒幕とされ、現在服役中のアブ・バカル・バシル服役囚を近く釈放する方針を明らかにした。

政府は80歳になるバシル服役囚の高齢に伴う健康状態に配慮した「純粋に人道的見地からの判断」とその理由を説明しているが、バリ島テロ事件で多くの死傷者を出したオーストラリアは釈放に抗議の声を上げ反対の姿勢を示している。

一方でジョコ・ウィドド大統領は4月17日に再選を目指す大統領選挙を控えており、イスラム教徒の票の行方が再選に大きく影響することなどもあり「釈放は選挙戦略ではないか」との見方も出ている。

ジョコ・ウィドド大統領の法律顧問で元人権相のユスリル・マヘンドラ氏が1月18日、バシル服役囚が収監されているジャカルタ南郊のボゴールにある刑務所を訪問。同服役囚と面会して、大統領による釈放決定を直接伝えた。

これに対しバシル服役囚は大統領への感謝を述べるとともに「釈放後は休養と健康管理に専念し、訪問客との面会やイスラム教の説教などの活動は一切しない」との方針を明らかにしたという。

バシル服役囚は中東のテロ組織「アルカイーダ」と関連があるとされた東南アジアのテロ組織「JI」のメンバーに対し、イスラム教の指導、説教を通じて精神的支えとなり、同時に資金提供やメンバーのリクルートなどにも間接的に関わっていた疑いが浮上。テロ容疑で2010年に逮捕され、禁固15年の有罪判決が確定し、9年間服役している。

だが近年は高齢による健康不安が高まり、イスラム教組織などから「特例による釈放」を求める声が高まっていた。


バシル服役囚の釈放をめぐる議論について報じる現地メディア  KOMPASTV / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 6
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中