米中月面基地競争のゆくえは? 中国、月裏側で植物発芽成功
これに対して呉偉仁は、「科学者同士として、『いいよ』と回答した」というのだ。
CCTVの記者は、中国が心血を注いできたものをアメリカに使わせるのかと、気色ばんだ顔で質問をぶつけた。米中の間には敵対的で激しい競争が展開されていることを念頭に置いたのか、「相手に機密技術を言わないという選択もあるのでは?」と迫った。
すると呉偉仁は「たしかに国と国の間のことを考えると、相手に言わない協力しないという選択もある。しかし科学者同士は国際的に協力し交流するのは当たり前だ」と答えている。
膨大な予算と年月を費やして、ようやくラグランジュ「L2」点で引力のバランスを取りながら定点的に宇宙空間に静止して浮いている中継衛星「鵲橋号」を、ライバル国であるアメリカの科学者に貸すというのである。科学者と言ってもNASAが動かなければなるまいに。
「L2」点を突き当てて、そこに静止して浮かばせ、アンテナの役割をさせ続けるなどということは至難の業だ。非常に高度な技術が要求される。それに成功した千載一遇のチャンスだからこそ、多くの国に享受してもらう「大国の姿勢」が必要だと呉偉仁は言う。
えっ――?!
耳を疑った。
中国に「大国の姿勢」などと言われると、何とも心地いいものではないが、それにしても、これだけ激しい米中貿易摩擦がある中、月面基地をめぐっても米中が激しい競争を展開すると予測されるが、それがこのような形で協力するということなどがあり得るのだろうか?
もし「ある」とすれば、「習近平とトランプの闘い」は、どうなるのか?
中国共産党の報道局であるCCTVで放送したのだから、この番組も中共中央の許可が下りていなければならないが、成り行きがどうも気になる。
アメリカを排除することなく、あるいは「従えて」、国際社会のトップリーダーになろうというのが、中国の最終的な覇権の形だというのだろうか?
たしかに「中共中央・国務院・中央軍事委員会の祝賀の辞」の中には、習近平がよく使う(偽善的で戦略的な)「人類運命共同体」という言葉がある。しかしそうであったとしても、言論弾圧をする国が宇宙支配のトップに立って人類をリードしていくなどということになったら、どれだけ恐ろしい未来が待っていることか。
それを考えたら、トランプには「壁」の問題などで政府機能を停止させてほしくないし、また日本も「中国への協力を強化する」などと、恐るべき未来を予測しない安易な発言をしている場合ではないだろう。
中国の宇宙開発は着々と進んでいる。この現実を直視し、これが何を意味するかを深慮すべき時が来ている。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。